前田泰良と藤沼拓夢の献身で繋いだ天皇杯PK勝利。SC相模原が川崎Fと繰り広げた死闘の裏側
相模原の流儀#18
2023シーズンにクラブ創設者の望月重良氏から株式会社ディー・エヌ・エーが運営を引き継ぎ、元日本代表MFで人気解説者の戸田和幸を指揮官に迎えたSC相模原。新たに築き上げた“エナジーフットボール”の礎を2024年6月より引き継ぐシュタルフ悠紀監督の下でJ2復帰を目指す中、“緑の軍団”が貫く流儀に2021年から番記者を務める舞野隼大氏が迫っていく。
第18回は、前田泰良と藤沼拓夢の献身について。死闘の末に川崎フロンターレを下した天皇杯3回戦の裏側を振り返る。
「チームにも火を点けられたら」開始直後の前田に感じた気概
「彼を起用しなければ実現できない戦い方でした」
天皇杯3回戦、SC相模原は川崎フロンターレと戦い、PK戦の末にジャイアントキリングを起こした。延長戦も合わせて失点をゼロに抑えたことで結果を手繰り寄せたが、シュタルフ悠紀リヒャルト監督の言う“彼”とは、2トップの一角で出場した前田泰良のことだった。
今季の公式戦で初めての先発。そんな前田を指揮官が抜擢してピッチへと送り出したのには理由があった。
「前半の守備では[5-3-2]と[5-4-1]を併用する形を採用していて、ミドルプレスと低い位置で引いた時のブロックを使い分ける戦術を準備していました。そこのキーマンだったのが、前田でした」
カテゴリーが2つも上の川崎Fは、言うまでもなく選手個々人の止める・蹴るの質が高い。普段のJ3での戦いとは違い、主導権をある程度握られることが想定された。そのためボール非保持時には前田がDFラインでパスを回す相手に対して無尽蔵のスタミナを生かし、牽制して押し込みつつ、プレスを掻い潜られた際は前田が後列に吸収される形で[5-4-1]の強固なブロックを敷いた。
「走る量は相当多かったですし、頭も使いましたけど、中盤の3人(インサイドハーフの徳永裕大、大迫塁とアンカーの島川俊郎)ともよくコミュニケーションを取りながら、うまく守備ができたと思っています」
前田は、容赦なく脇坂泰斗、山本悠樹、丸山祐市ら主力をずらりと並べてきた川崎Fに臆することなくプレスをかけにいき、引いた際はMFの一員としてスペースを埋めながらタイミング良く飛び出していく。そんな彼の鋭いプレッシャーは、相模原の勢いにも繋がった。
最初にインパクトを与えたのは、キックオフ直後だった。
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Profile
舞野 隼大
1995年12月15日生まれ。愛知県名古屋市出身。大学卒業後に地元の名古屋でフリーライターとして活動。名古屋グランパスや名古屋オーシャンズを中心に取材活動をする。2021年からは神奈川県へ移り住み、サッカー専門誌『エル・ゴラッソ』で湘南ベルマーレやSC相模原を担当している。(株)ウニベルサーレ所属。
