インテル撃破のフルミネンセが示した弱者の戦い=サッカー版「ロープ・ア・ドープ」

新・戦術リストランテ VOL.73
footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!
第73回は、クラブW杯で浦和レッズと同じように早い時間帯で先制して守りを固める戦い方を見せながら、2-0でインテルを撃破したフルミネンセの弱者の戦い=サッカー版「ロープ・ア・ドープ」について掘り下げてみたい。
ノックアウトステージに進んだ16チームを大陸別に見ますと、UEFAが9、CONMEBOLが4、AFC1、CONCACAF1、開催国枠1、CAFとOFCはゼロでした。
そもそも参加枠が違うのですが、欧州のベスト16率は75%、南米66%、アジアと北中米が25%と、割り当て枠通りの結果ですね。開催国枠のインテル・マイアミ(100%)は別ですけど。
ブラジルは参加4チームすべてベスト16入りしました。国別出場チームでは最多(米国×3、スペイン×2、イングランド×2、その他×各1)。パルメイラスとフルミネンセはベスト8に進出しています。ボタフォゴはラウンド16でパルメイラスに敗れていて、他国に敗れたのはフラメンゴだけ(2-4/バイエルン戦)。こうして見るとブラジル勢は存在感ありますね。
2017年に『プラカール』誌が発表した「歴史的クラブランキング」によると、1位はサンパウロFC、2位フルミネンセ、3位フラメンゴ。フルミネンセは欧州勢に強く、143戦して84勝30分29敗。『プラカール』誌独自の<成功率>ではナンバーワンとされています。
今回のクラブW杯グループステージで、ブラジル勢の対欧州は2勝2分。ラウンド16でフラメンゴがバイエルンに負けましたけど、グループステージでは無敗でした。
バイエルンに力負けだったフラメンゴのフェリペ・ルイス監督は「相手の方が良い選手がいた」と話しましたが、フルミネンセはインテルに2-0で勝っております。さすが対欧州最強クラブ(2017年まで)。
クラブW杯はW杯以上に格差のある大会です。大陸別参加枠を見ても欧州優遇は歴然ですが、ラウンド16の勝ち上がりからするとそれも妥当で、そもそもどの大陸でもベストな選手は欧州クラブにいるわけですから戦力差も当然と言っていいでしょう。
欧州以外のチームは対欧州において弱者の戦いを強いられています。その中で、ブラジル勢は着実に成果を残しているわけです。
専守防衛の[5-2-3]+相手に合わせる柔軟さ
歴史的に欧州にコンプレックスを持たない心理的なアドバンテージはあるかもしれません。ただ、フェリペ・ルイス監督も言っていたように戦力差はある。そこを認めた上で、どう戦うか。
フルミネンセは4バックを5バックに変えてインテル戦に臨んでいます。チアゴ・シウバを中心とした3CBにウイングバックをプラスした5バック。その前に2ボランチ、さらに前にFW3人。[5-2-3]システムでした。FWが3人といっても、3人とも自陣に引いて10人がコンパクトなローブロック態勢です。専守防衛、フィールドの半分は明け渡してしまいます。
インテルはシモーネ・インザーギ前監督からキブ監督に代わりましたが、今のところ戦い方に変化はありません。[3-5-2]システムも変わらず。ビルドアップでは独特の可変をします。両ウイングバックが高い位置へ出て、MFアスラニかムヒタリャンが下がって最終ラインに入る。そして左CBバストーニが連動して左サイドの高い位置へ出る。左サイドはウイングバックのディ・マルコだけでなく、バストーニも送り込んで数的優位を作るやり方でした。
対するフルミネンセはゾーンの対応。アリアス、カノ、ノナトの前線3人で規制をかけながら、インテルの前進に合わせて5-2ブロックの援護のために下がります。インテルが左サイドに人をかけているので、フルミネンセも右肩下がりの守り方になっていました。ただ、それ以外は基本的に自分の担当エリアを守ります。
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Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。