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「選手に非秩序を作らせるために、私は秩序を与える」シャビ・アロンソはレアル・マドリーをどう変えるのか

2025.06.06

サッカーを笑え #43

4年ぶりの監督交代を経て、6月18日からFIFAクラブワールドカップ2025に臨む今夏のレアル・マドリー。カルロ・アンチェロッティ(現ブラジル代表)の後を任された新時代の名将、シャビ・アロンソ(43歳)とはあらためて、どんな指揮官なのか。そのポジショニングに関する非常に合理的な考え方、厳格なルールに基づく流動性を、レバークーゼン時代の事例から解き明かしてみたい。

厳格なルールと流動的なポジショニング

 レアル・マドリーの新監督にシャビ・アロンソが就任してマドリッドのメディアではいろんな憶測が飛んでいる。いわく、レバークーゼン時代の[3-4-3]にするとかしないとか、[4-3-3]に決めたとか。読んでみると、スペイン人らしい“3バックへの恐怖”というのが透けて見える。要は、“3バックは守備的なのでレアル・マドリーにはそぐわない”という30年前から変わっていない認識のままなのだ。[3-4-3]は今季セルタが採用して面白いサッカーをし、EL出場権を獲得したというのに……。

 そんな下らない議論は無視して、シャビ・アロンソがどんな監督なのかを見てみようということで、手元にあった対インテル戦(CLリーグフェーズ第6節/2024年12月10日)をチェックした。その結果、非常に面白い戦い方で、ぜひレアル・マドリーでもやってほしいと思わざるを得なかった。

5月26日に行われた監督就任記者会見で

 まず感じたのは、シャビ・アロンソはポジショニングについて非常に合理的な考え方をする、ということ。

 システム(フォーメーション? このあたりはみなさん自身の呼び方で)なんかよりも「合理的なポジショニングが一番大事」というのは、自分が子供たちを指導し始めて最初に感じたことでもある。

 当たり前だけど、システム[3-4-3]だからと言ってずっと3バックである必要はまったくない。状況によっては6バックになってもいいし、2バックになってもいい。また、[3-4-3]だからと左右対称にとらわれるのも馬鹿らしい。ボールは1つなのだ。右か左かどっちかにある。ボールのあるサイドには寄せるし、ないサイドは空白地帯になっていくし、寄せることによってボール近くの人口密度が上がり、それによって引っ張られてラインごとの人数が変わっていく。

 要は、状況が求めていることによって最適なポジショニングをするのが一番いい。サッカーでは過不足を作ってはいけない。誰かが余っていれば必ずどこかに不足があるから。最適の人数で最適のポジショニングをしているこそがベストかつ最強なのだ。

 というわけで、合理的な考え方をすれば、選手は流動的に動かざるを得ない。シャビ・アロンソ監督の下ではレアル・マドリーは流動的に動くだろう。が、ここからが肝心なところで、どこまでを流動的にしてどこまでを固定的にするか?

 無制限に流動化すればカオスなチームができ上がる。右の選手が左へ行き、左が右へ、前が後ろへ、後ろが前へ……。CBがシュートを打っていて、FWが最終ラインで体を張っている、なんてレベルのカオスは、単なる才能の無駄使いで適材適所の無視であるから、弱いチームしか生み出さない。相手にカオス(=サプライズ)を作り出すことが目的の一つである攻撃はそれでも機能するかもしれないが、整理整頓されているべき守備は決して機能しないだろう。

 つまり、流動的になることにはルールが必要だ。原則(システム)をどこまで崩すかにもルールが必要だ。今回、分析してみて、シャビ・アロンソのチームには厳格なルールがあり、その厳格なルールの下で、流動的なポジショニングが運用されていることがわかった。厳格さと流動性は一見矛盾しそうだが、厳格に流動的にすることで両立する。

 シャビ・アロンソはシステムを崩さない“頑固親父”ではない。自由奔放を喧伝する“リベラル兄ちゃん”でもない。合理的なモダンな監督である。

 シャビ・アロンソの言葉で大好きな言葉がある。

 「選手に非秩序を作らせるために、私は秩序を与える」

 彼のレバークーゼンを見ていると、サッカーにおける秩序と非秩序とは何かがよくわかる。

16バック、15トップのメカニズム

……

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Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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