インテルのビルドアップを封じたPSGのプレスとデュエル。「2つのサッカー」の本体ではなく「+α」で差が出たCLファイナル

新・戦術リストランテ VOL.69
footballista創刊時から続く名物連載がWEBへ移籍。マエストロ・西部謙司が、国内外の注目チームの戦術的な隠し味、ビッグマッチの駆け引きを味わい尽くす試合解説をわかりやすくお届け!
第69回は、24-25のCLファイナル、パル・サンジェルマン対インテル戦。「2つのサッカー」の最高峰の激突が、一体何によって決着したのかについて思いを巡らせてみたい。
一見すると「ポゼッション派vsファイトボール」の図式
ショートパスとポゼッションか、ロングボールとデュエルか。1872年に開催された初の国際試合スコットランド対イングランドから、すでに2つの対照的な戦術があったとされています。
その後、イタリアのカテナッチョという新たな戦術が加わり、スコットランド起源のポゼッション派とイングランド起源のデュエル派の融合も進んでいくのですが、両者が完全に1つになることは現在に至るまでありません。
これはもうサッカーは2つあると考えた方がいいのかもしれませんね。
サッカーはサッカーであり、プレースタイルはアプローチの違いでしかないわけですが、実際に2つのスタイルの完全な融合に至っていないのは、それぞれのやり方に最適化したプレーが違いすぎるからだと思います。
その昔、デュエル派のプレーはファイトボールと揶揄されたことがありました。ロングボール、デュエル、ハイクロスを得意としていたイングランド勢が典型です。
ポゼッション派がフットボールだとするならば、ファイトボールに特化してしまうとフットボールは上手くならない。周囲を見る、アイディアが浮かぶ、実行する。ポゼッション派を代表する名手だったシャビ・エルナンデスは「記憶でプレーする」と言っていました。いちいち言語的に考えてプレーしていないという意味です。状況を見た瞬間、勝手にアイディアが浮かぶ。どうプレーすべきか直観的にわかる。
なぜなら「記憶」があるからです。実行のところではボールのどこを、どうやって蹴るか、というプレー選択と、思った通りにやれるボール感覚、身体操作が問われるわけですが、それ以前のアイディアのところでファイトボールに特化している選手には「記憶」がない。試行回数が全然足りない環境でプレーし続けているからです。
これは逆も言えると思います。パスゲームに特化した選手はファイトボールに適応できません。頭の上をボールが飛び交う試合で何をしたらいいのかわからない。競り合いもタックルもできない。
もちろん現代の選手たちはハイブリッドなのですが、それでも2つの戦術が完全な融合はしていません。
24-25CLファイナル、パリ・サンジェルマン対インテルも、繰り返されてきた対照的な2つのプレースタイルの対決でした。
デュエルを活かすためのロングボール…その前提が崩れた
CL史上でもこれほど明確に優劣がついた決勝は珍しい。PSG圧勝の要因は、インテルに彼らのサッカーをさせなかったことが大きいと思います。
ポイントはPSGのハイプレスvsインテルのビルドアップでした。
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Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。