優勝決定のアンフィールドで目の当たりにした、リバプールという“ファミリー”【現地取材】

Good Times Bad Times 〜フットボール春秋〜 #16
プレミアリーグから下部の下部まで、老いも若きも、人間も犬もひっくるめて。フットボールが身近な「母国」イングランドらしい風景を、在住も25年を超えた西ロンドンから山中忍が綴る。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第16回(通算250回)は、サポーターたちとともにスタンドの一般席で、さらに試合後にはスタジアム内のパーティー会場で歓喜の瞬間に立ち会うことができた、あの日のアンフィールドで目にしたもの。
35年ぶりに「みんなで一緒に祝える」リーグ優勝
去る4月27日、それは、リバプールにとっての「パーフェクト・デイ」だった。
アンフィールドで、今季プレミアリーグ優勝を決めた第34節トッテナム戦(5-1)。青空の下、ホームに集結したサポーターたちは、ひたすら歌っていた。「We’re gonna win the league(リーグ優勝だ!)」と、意気揚々と声を上げたキックオフ前から、ピッチ上に並んだ選手たちと同様、肩を組んでクラブ賛歌『You’ll Never Walk Alone』を熱唱した試合終了後まで。
だが、会場を訪れた筆者の頭の中では、1990年代後半にリバイバルヒットした、ルー・リードの『Perfect Day』が流れ続けた。メランコリックにも感じられる同曲には、ドラッグ依存症がテーマとの説もある。赤い発煙筒を焚いてチームバスを迎えていたサポーターたちは、言わばリバプールなしではいられない人々だ。そして、「I’m glad I spent it with you(一緒に過ごせてよかった)」と歌われるサビは、リバプールファンの心境そのものだったに違いない。
前回、30年越しの願いが叶った2019-20シーズンのリーグ優勝は、ソーシャルディスタンスが社会のルールとされた、コロナ禍での出来事だった。つまり、今季のプレミア優勝は、5年ぶりである以上に、35年ぶりにスタジアムに集結して喜び合えるリーグ優勝だったのだ。
試合を前に尋ねてみたところ、高鳴るファンの胸の内には、そろって「みんなで一緒に優勝を祝える」との思いが存在していた。リバプールまで30分ほどの駅で、電車を待っていた女性も、一般席で観戦した筆者の隣にいた、がたいの良い青年も、前列でレプリカシャツを着た、恰幅の良い“フィルミーノさん”も。



「まさかここでやるとは」…右SB遠藤に「ワ〜タルー」の大合唱
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Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。