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負傷者が続出するアーセナルの理想と現実。24-25前半戦を振り返る5つの視点

2025.02.28

せこの「アーセナル・レビュー」第14回

ミケル・アルテタ監督の下で一歩ずつ着実に再建を進めているアーセナル。その復活の軌跡をいち”グーナー”(アーセナルサポーターの愛称)でありながら、様々な試合を鋭い視点でわかりやすく振り返っているマッチレビュアーのせこ氏がたどる。第14回では、5つの視点から負傷者が続出した2024-25シーズンの前半戦を振り返っていく。

 2024-25シーズンの前半戦を振り返る前に、まずは開幕前の夏の移籍市場におけるアーセナルの振る舞いを簡単に振り返りたい。チームの方向性を探る上で重要だからだ。

 おそらくクラブの本命のターゲットはCFであったはず。しかしながら、噂に上がっていたベンヤミン・シェシュコはRBライプツィヒ残留を決意し、アレクサンデル・イサクはニューカッスルのガードが固く手が出ないという結果に。おそらく補強リストの1、2に載っているであろう彼らの移籍は難しくなったこと、そしてシェシュコに関しては、報道によれば来夏に獲得再挑戦が可能である紳士協定を結んでいるということもあって、ストライカー獲得を見送っている。

 代わりに完全移籍でやってきたのはメリーノとカラフィオーリの2人。前者は試合の組み立てに関与しつつ、インサイドハーフから前線への飛び出しでクロスのターゲットにもなれるMF。後者は列を上下動しながらビルドアップでアウトナンバーとなり、アタッキングサードでは思い切った飛び込みも見られるDF。どちらもアルテタ監督の文脈を深めるタイプであり、CFのポジションのように新しい要素を求めての補強ではない。

 よって、今夏のスカッド構築から逆算されるアーセナルの目標は、2023-24シーズンに定めた方向性をより強めて、安定させることにあると考えるべきだ。低い位置からの多彩なポジションチェンジをベースとしたプレス回避、ハイプレスとローブロックを使い分けた強固な守備。理不尽な得点がない分、ミスが許されない陣容。この辺りをうまく達成できているかが、現在進行している2024-25シーズンを評価するポイントになる。その点を踏まえながら前半戦を5つの視点から振り返りたい。

視点①必勝パターンが成立できないアクシデントの数々

 ここまでアーセナルの退場者はプレミアリーグ最多の5人。中には判定の妥当性に異を唱えたい人もいるかもしれないが、大事なのはミスが許されない理詰め重視のチームにおいて、1人減ってしまうというのは致命傷だということ。数的不利に陥った5試合の戦績は1勝2分2敗。リーグ戦全体の黒星3つのうちの2つが当てはまる格好だ。第3節ブライトン戦(1-1)や第5節マンチェスター・シティ戦(2-2)のように、リードしながらも退場後に逃げ切れず、つかみかけた白星を取り逃した試合も含まれている。

 第27節時点で1試合を前倒し消化しながら13ポイント先を走る首位リバプールと激突した第9節は、ケガ人続出によってバックラインがクライシスだった。守備の要と言えるガブリエウと、マルチロールのティンバーの負傷交代により、4バックの左半分がキビオルとデビューしたてのマイルズ・ルイス・スケリーという急造コンビに。当然のように同サイドを破られ、2-2に追いつかれてしまった。このように先手を取ったらローブロックを組んで逃げ切るという、従来の必勝パターンが成立しなかったのが序盤戦の辛いところだった。

 また、相手のストライカーにワンチャンスを決められるというパターンで同点、もしくは先制点を取られるという別の意味で不運なパターンも目立っている。「なんでこんなに敵のFWは一発回答を出すんだ!」と嘆きたくなるかもしれないが、これに関してはミスを許さない理詰めのチームの宿命。一瞬の隙を与えること自体、許されないのが今のアーセナルの戦い方である。

視点②ウーデゴールの不在を補った均質性

 視点①からもわかるように、今季のアーセナルはケガとの戦いとなっている。もっとも、この過密日程であれば欧州カップ戦を戦うすべてのチームに言える話かもしれないが。

 いずれにしてもフル稼働を見込んでいた主力が、ことごとく負傷に襲われている。アーセナルの攻撃の強みの1つである右サイドのユニットは疲れ知らずだったが、いずれも数カ月にわたって離脱。サカ、ホワイト、そしてウーデゴールの3人がそろった試合は数えるほどしかない。……

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Profile

せこ

野球部だった高校時代の2006年、ドイツW杯をきっかけにサッカーにハマる。たまたま目についたアンリがきっかけでそのままアーセナルファンに。その後、川崎フロンターレサポーターの友人の誘いがきっかけで、2012年前後からJリーグも見るように。2018年より趣味でアーセナル、川崎フロンターレを中心にJリーグと欧州サッカーのマッチレビューを書く。サッカーと同じくらい乃木坂46を愛している。

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