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長谷部フロンターレの冒険が今、始まる。2025シーズンを占う「勇者しげとし」の規律と信念

2025.01.28

フロンターレ最前線#12

「どんな形でもタイトルを獲ることで、その時の空気感を選手に味わってほしい。次の世代にも伝えていってほしいと思っています」――過渡期を迎えながらも鬼木達前監督の下で粘り強く戦い、そのバトンを長谷部茂利監督に引き継いで再び優勝争いの常連を目指す川崎フロンターレ。その“最前線”に立つ青と黒の戦士たちの物語を、2009年から取材する番記者のいしかわごう氏が紡いでいく。

第12回では2025シーズンを占うべく、長谷部新監督の規律、信念、そして勇気に迫る。

 長谷部フロンターレが始動している。

 1月7日に麻生グラウンドで初練習を行うと、18日には川崎市内のカルッツかわさきで新体制発表会を実施。14日から約2週間過ごす沖縄キャンプでは、共通理解を深めながら対外試合を通じてチーム強化に取り組んでいる。

 2025年の川崎フロンターレは、どんなサッカーを展開していくのか。非公開練習も多いため、世に出ている情報は限られている。そのためベールに包まれている部分がほとんどだが、多くの人が思い浮かべるのは、新任の長谷部茂利監督が去年まで率いていたアビスパ福岡のゲームモデルかもしれない。堅守をベースにした戦い方で、J1昇格だけではなくクラブ史上初となるタイトル獲得をするなど手腕を発揮した。5シーズンにわたった長期政権だっただけに、そのイメージはやはり根強いだろう。

 ただ福岡で表現していたスタイルを踏襲する可能性は低い。例えば新体制発表会でのこと。囲み取材に応じた竹内弘明GMは「長谷部監督も福岡のサッカーをするためにここに来ているわけではないと思うので、お互いチャレンジしていこうというところですね」と述べた上で、招へいの背景にクラブが目指す方向性との差異が小さかったことを説明している。

 「この戦力とスカッドだったら、どういうサッカーができますかねっていうところからの始まりでした。(長谷部監督が)思い描くようなイメージと我われのイメージにそんなに違いがなかった。実際にどうなるかはやってみないとわからないですが、同じ方向を向けるかを合わせていた時に任せたいなと思いました」

 実際、長谷部監督本人も「(福岡時代とは)変わると思います」と発言している。新体制発表会でのトークコーナーで明かしたものだが、あくまで川崎Fが培ってきたスタイルを念頭に置いたチーム作りを進めていくとのことだった。

 「クラブのフィロソフィーを大事にして、やりたいことをやり続けていけば、結果の出るチャンスがあるチーム。やりたいことだけをやって結果の出ないチームはたくさんあります。(川崎Fは)攻撃的にやり続けて結果の出る可能性が高い。そこを大事にして、プラス修正するところを見極めながらやっていきたいと思っています」

 去年は無冠だったものの、2017年からJ1優勝が通算4回、天皇杯は2回、ルヴァンカップ1回と計7冠を獲得している。近年のJリーグにおいて、もっともタイトルを勝ち獲ってきたクラブである。その成功体験は否定されるものではなく、生かすべき得がたい財産だと言えるはずだ。得点数は昨年もリーグ2番目の多さを記録している。指揮官もそうした哲学を理解した上で新たにチームを作り上げていくのだろう。

 何より現役時代は、技巧派で鳴らしたテクニシャンだった。攻撃的なスタイルを志向することになんら不自然さはない。本人も「攻撃は好きですね。点を取るのがサッカーは一番だし、そこに関わるプレーが次に面白い」と口にしている。リップサービスも含んでいたのかもしれないが、選手たちの技術を生かしてボールを大事にしながら、相手陣地に押し込んで戦う大枠の方向性は変わらないと見ている。

「寸足らずの毛布」。難題解決のヒントは「規律」にある

 同時に、王座奪還のためには足りないものもある。……

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Profile

いしかわごう

北海道出身。大学卒業後、スカパー!の番組スタッフを経て、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の担当記者として活動。現在はフリーランスとして川崎フロンターレを取材し、専門誌を中心に寄稿。著書に『将棋でサッカーが面白くなる本』(朝日新聞出版)、『川崎フロンターレあるある』(TOブックス)など。将棋はアマ三段(日本将棋連盟三段免状所有)。Twitterアカウント:@ishikawago

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