REGULAR

躍進ボーンマスを支える「最も創造的なセットプレーコーチ」の斬新なショートコーナー

2025.01.21

TACTICAL FRONTIER~進化型サッカー評論~#12

『ポジショナルプレーのすべて』の著者で、SNSでの独自ネットワークや英語文献を読み解くスキルでアカデミック化した欧州フットボールの進化を伝えてきた結城康平氏の雑誌連載が、WEBの月刊連載としてリニューアル。国籍・プロアマ問わず最先端の理論が共有されるボーダーレス化の先に待つ“戦術革命”にフォーカスし、複雑化した現代フットボールの新しい楽しみ方を提案する。

第12回は、プレミアリーグで7位と躍進しているアンドニ・イラオラが率いるボーンマスを陰から支えるアシスタントコーチ、「今季、最も創造的なセットプレーコーチ」とも呼ばれるショーン・クーパーが考案した攻撃的なショートコーナーの各種デザインについて分析してみたい。

 今季、フットボールの母国では従来の勢力図が覆されつつある。

 過密日程とロドリ不在によるマンチェスター・シティの不調は多くの識者を驚かせ、絶対王者がその輝きを失っている。ペップ・グアルディオラにとっても経験の少ない「冬のシーズン」となりそうで、プレミアリーグの優勝は相当に難しい状況だ。一方で首位を争うのはリバプールとアーセナル。アーセナルは昨シーズンも優勝を最後まで争ったチームであり、リバプールも新指揮官スロットがクロップのチームを引き継ぎ、スムーズに選手たちの実力を発揮させている。

 上位にはニューカッスルやチェルシーなど資金力と選手層の厚いチームが並ぶが、「台風の目」となっているのがノッティンガム・フォレストとボーンマスだろう。前者はCL圏内をキープしながら2位のアーセナルからも離されずに好位置をキープし、その堅実な守備力とロングカウンターで上位陣を相手でも堂々と渡り合っている。

 今回のコラムで取り上げるのは、もう一方のボーンマスだ。

CF2枚不在で難敵ニューカッスルを圧倒

 現時点(22節終了時点)でボーンマスは欧州圏内が視野に入る7位。ここからの躍進によっては上位を狙えそうな彼らは、上位チームとのゲームでも力を発揮している。

 42歳のアンドニ・イラオラが率いるチームは、着実にチームを強化することで競争の激しいプレミアリーグに適応している。今シーズンは前線の柱だったドミニク・ソランケをトッテナムに放出し、その穴埋めに苦しむかと思われたが、ポルトから獲得したブラジル人FWエバニウソンがフィット。前線から激しく追い回す献身的なストライカーによってハイプレスはさらに強化され、上位チームを苦しめる1つの要因になっていた。

 しかし、そのエバニウソンが第20節エバートン戦で負傷。中足骨の骨折と診断されており、すでに手術も受けている。エースが長期離脱となる見込みで、加えてトルコ代表FWエネス・ウナルも右ひざの前十字じん帯を断裂。2人のCFを欠くことになったボーンマスは、第22節ニューカッスル戦でワイドポジションが本職のダンゴ・ワッタラをCFで先発させる。この上位対決では、ボーンマスのベンチに座った全員が25歳以下という状況で迎えた。今季の過密日程では上位チームでも同じような状況が散見されてはいるものの、選手層の薄い中位チームでは主力が抜けることで一気に弱体化することも珍しくない。

 しかし、4ゴールを決めて勝ち切ったのはボーンマスだった。

……

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Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。

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