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いかにも“灰色の国”らしいオルモ登録問題の無理筋、超法規的措置、陰謀論…こんなスペインサッカーは嫌だ

2025.01.17

サッカーを笑え #33

この国の「緩さ」が悪い意味で出た事件だった。スペインサッカー連盟とラ・リーガのルールに則った決定を政府が覆した、バルセロナのMFダニ・オルモとFWパウ・ビクトルの選手登録問題。日本では考えられない、その不手際だらけの経緯を詳報する。

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 スペインで生活していると魅力について聞かれることが多い。この国の特徴は良い意味でも悪い意味でも「緩さ」だ。いろんな面で厳しくない。働き方も緩くて、日本が“今日できることは明日するな”の国であるのに対して、スペインは“明日できることは今日するな”の国。夏休みは3週間あるし、現在週40時間労働のところを36時間へ削減する方向で政府が動いている。人々はリラックスしていて大らかで寛容で明るい。外国人にも優しくて、私の心臓手術や入院の費用は100%社会保険でカバーされた。

 もちろんモラル面でも緩い。前国王の不倫が公然の秘密となっているし、この間のバレンシアの洪水時には100人以上の“火事場泥棒”の逮捕者が出たし、ドラッグも蔓延しているし、不法滞在者もいるし、現金手渡しのブラックなエコノミーもある。

 日本がホワイト社会ならスペインはグレー社会である。モラルの障壁が低いので、いろんな場面で肩身の狭い思いをしなくていい。世間の目も世間体もないのでのびのびと生きられるし、社会は一般人であるあなたを放っておいてくれるし、少々のミスは大目に見てもらえてSNSが炎上するなんてことはない。例えば、提出期限を過ぎた書類でも、窓口の担当者の機嫌が良ければ認められたりする。もっともその延長線上で、ルールが守られず、筋が通されず、汚職まみれである。長所の過剰は短所。緩さは美徳であると同時に、緩過ぎることはこの国の欠点なのだ。

 そんな悪い意味での緩さが出たのが、ダニ・オルモとパウ・ビクトルの選手登録が一転して認められた事件だった。

……

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Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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