スパーズのアイデンティティとは何か。伊沢拓司も初めて知ったあの一文の価値、クラブ公式サイトの歩き方

the SPURs for the Spurt 〜N17から眺めるプレミアリーグ〜 #5
熾烈な上位争い、世界中から集まる有望株、終わることのないマネーゲーム……欧州サッカーの中心となったプレミアリーグが、なぜここまでの地位を手に入れたのか、そして今後どうなっていくのか。“クイズ王”としておなじみの伊沢拓司が、敏腕経営者ダニエル・レヴィ率いるトッテナム・ホットスパーを通して、その活況の要因と未来の展望を綴っていく好評連載。
第5回は、第21節を終えて13位(2025年1月15日時点)……そんな今だからこそあらためて考えたい、スパーズという「THE CLUB」がいかなる存在であるか、そのフットボールはいかにあるべきか。
極東のプレミアファンが読むべき“原典”
前回の連載では「怪我の多さと戦術の間の相関は、あるとは言えない」と書いたのだが、その後スパーズは怪我人が続出した一方、走行距離リーグ最下位のリヴァプールは怪我人を抑えて快進撃を続けている。現実は厳しい。
とはいえ、報道によるとクラブは苦境のポステコグルーを100%サポートするということだし、現実的な代替監督もおらず、育成方針を考慮しても今が勝負時ではないだけに、クラブがドラスティックな決定をすることはまず考えられないだろう。
常に矢面に立つのは監督なので、我々は気を抜くとあらゆる決定を監督の独断と考えがちだが、プロクラブというのはそう簡単な場所ではない。
戦術分析やメディカル、補強等の分権化は進んでおり、細かな決定、たとえば出場へのゴーサインなどは担当者の意向が大きく反映されるだろう。どの程度それを採用するかは監督次第とはいえ、完全なスルーということはないはずだ。「監督がメディカルを無視している」などと報道されてプレカンで突っつかれるのがオチである。
もっと言うと、監督すらクラブに雇われた人材に過ぎず、結局のところ「このクラブがどのような場所か」「クラブの上層部がどう考えているか」がより大事になってくる。発展性のない不満を自らぶちまけフロントに楯突いたアントニオ・コンテ(現ナポリ監督)は即刻クビだった。補強に関する強い権限を欲しがっていたマウリシオ・ポチェッティーノ(現アメリカ代表監督)もだいぶ煙たがられていたようだ。アイドルグループのリーダーが事務所に公然と歯向かったら、是非はともかくとして一緒に仕事を続けてはいけない……みたいな感じだと私は解釈している。その点、与えられた環境や負傷による不運について不満を言わず前向きな発言を繰り返すポステコグルーは、これまでに比べると我慢強く責任を全うしているだろう。クラブからしてもありがたい人材だ。
そう、大事なのは、クラブがどう考えるのかだ。そしてその考えが、どのようなアイデンティティから生ずるかだ。
プレミアリーグを構成するクラブはいずれも長い歴史を誇り、その中でファンコミュニティ、特に現地で形成されてきた価値観というのは複雑かつ堅固である。にもかかわらず、そうした考え方はたびたび言及されるようなものでもなく、わかりやすくもないため、グローバルなファンからすると理解しづらい部分がある。
できることなら、そうしたカルチャーを理解したうえで応援していきたい。文脈や背景を理解し、クラブの行動を読み解きたい。これができたら、よりフットボールファンでいることが楽しくなるだろう。
だから、極東からプレミアリーグを楽しむ我々は、クラブの公式サイトを読むべきなのである。
実は、公式サイトには本当に多くの情報が掲載されている。クラブが何を重視しているか、何を提供しているか、どんなフットボールをしようとしているのか。それはもう、監督の方針よりも大事かもしれない。もちろん楽しく試合を見るだけでも良いのだが、一定以上に理解を深め、クラブの決定について背景を推察するのであれば、その判断の原典はやはり公式サイトだ。
ということで今回は、スパーズの公式サイトを他のプレミアリーグクラブと比較し、クラブのアイデンティティとは何か、各クラブの特色とともに迫っていきたい。
The Game Is About Glory.
まず、スパーズのサイトの構造から説明しよう。アタリマエのことではあるが、これは大半のプレミアリーグクラブのサイトにおいてほぼ共通である。自分の応援しているクラブもそうであると思ってかまわない。
チームニュース、チケットセールス、オンラインショップ。このあたりがもっぱら現地サポーターがよく使うゾーンだ。スタジアム情報や動画配信、オフィシャルアプリへの誘導なんかも見やすい部分に置いてある。女子チームのサイトも同居していることが多い。
グローバルな人気があるプレミアリーグゆえ、どのクラブもサイトを多言語対応にしているが、スパーズのサイトは日本語では見られない。英語か韓国語、というなんともスパーズらしい二択になっている。そもそも日本人選手がいるアーセナルやブライトン、セインツ(サウサンプトン)のサイトも日本語に対応していない(というか、言語を選べるタブが見当たらない)のでしょうがないのだが、もう少し日本語で見られるページが増えれば……と思わないこともない。リヴァプールやマンチェスター・ユナイテッドは日本語公式サイトを持っていて流石である。日本企業のスポンサードも関係しているかもしれない。オーナーがタイ人であるレスターのサイトはタイ語対応、UAE資本が入っているマンチェスター・シティのサイトはアラビア語対応である。表示される言語からだけでも、クラブの様々なことが見て取れるだろう。
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Profile
伊沢 拓司
私立開成中学校・高等学校、東京大学経済学部卒業。中学時代より開成学園クイズ研究部に所属し開成高校時代には、全国高等学校クイズ選手権史上初の個人2連覇を達成。2016年に、「楽しいから始まる学び」をコンセプトに立ち上げたWebメディア『QuizKnock』で編集長を務め、登録者数200万人を超える同YouTubeチャンネルの企画・出演を行う。2019年には株式会社QuizKnockを設立しCEOに就任。クイズプレーヤーとしてテレビ出演や講演会など多方面で活動中。ワタナベエンターテインメント所属。