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ユーベに続きインテルでもスクデット獲得。「マロッタ・メソッド」とは何か?

2024.05.03

CALCIOおもてうら#14

イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。

今回は、前回に引き続きスクデット獲得のインテルがテーマ。シモーネ・インザーギ監督と並ぶ、もう1人の功労者ジュゼッペ・マロッタCEOのチーム強化戦略「マロッタ・メソッド」を掘り下げる。

 インテルがシーズンを通して高止まりで安定したパフォーマンスを保ち、躓くライバルを尻目に独走体制を築いてスクデットを勝ち取った、その鍵の1つがシモーネ・インザーギ監督の卓越したチームマネジメント能力にあったことは、前回の当コラムで掘り下げた通り。レギュラーと控えの線引きがかなり明確であるにもかかわらず、出場機会の少ない選手が不満を表に出すこともなく、チームが強い結束を保ってシーズンを戦い抜いた。

マロッタが重視した「コアグループのイタリア化」

 これに関して、優勝が決まったミラノダービーの試合後インタビューでジュゼッペ・マロッタCEOが語っていたコメントが興味深かった。

 「どんな仕事環境もそうだが、サッカーチームでも人間性の側面はきわめて重要だ。いかに能力が高くても人間性が伴っていない選手と仕事をするのには困難が伴う。我々はチームを築く上でその側面にも注意を払ってきたし、インザーギはその優れた手腕で我々が用意したチームから最大限の力を引き出した。

 もう1つ、誇りを持って強調したいのは、チームの中核をイタリア人のグループが担っていることだ。これもチームを築く上で根本的な重要性を持っている。この国で戦い勝利を勝ち取ることの価値、このチームの一員であることの重さ、プロビンチャのスタジアムで苦しんだ末に勝利を持ち帰ることの意味を肌身で知っているから。それも含めて、我々はイタリアにおける1つのモデルを確立したと思っている。これを今後も活かしていくことが重要だ」

 インテルナツィオナーレFC、直訳すれば「国際フットボールクラブ」という正式名称が物語る通り、このクラブは、当時世界最強だったドイツ代表の主力マテウスやブレーメ(さる2月に64歳で死去)を擁して無敗優勝を勝ち取った80年代末から、ロナウドやサモラーノ、ジョルカエフ、シメオネらを揃えてスクデットを争った90年代末を経て、モウリーニョがエトー、スナイデル、ミリートからマイコン、ルシオ、ジュリオ・セーザルらを率いて「トリプレッタ(3冠)」を達成した00年代末、そして2度のオーナー交代を含む混迷が続いた2010年代と、ここ半世紀近い歴史を通じてほぼ常に、レギュラークラスの大部分を様々な国籍の外国人選手が占めるスカッド構成が特徴だった。マロッタはその「伝統」にあえて逆らったことになる。

09年8月、宿敵とのミラノダービーを4-0で制した後のモウリーニョとスナイデル

 クリスティアーノ・ロナウド獲得に反対したことが最終的な引き金となり、2010年からCEOを務めてきたユベントスを追われるように去って間もない2018年末、インテルにスポーツ部門のCEOとして迎えられたマロッタは、それからの5年あまりを通して段階的に、コアグループのイタリア化を進めてきた。着任当時(18-19)のスカッドは、イカルディ、ブロゾビッチ、ペリシッチ、ナインゴラン、ジョアン・マリオら癖の強いパーソナリティが群雄割拠し、あのスパレッティですら統率しきれなかったほどだった。

 そこからバレッラ、ポリターノなどイタリア代表クラスを獲得する一方で、ディマルコ、バストーニもレンタル先から呼び戻し、さらにダルミアン、アチェルビ、フラッテージらイタリア人選手を加えてきた結果、今シーズンのスカッドは、バレッラやディマルコを中心とするイタリア人、加入6年目と今や最古参で帰属意識の強いラウタロらが構成するコアグループの下、固い結束を誇っている。

緊縮財政と戦力維持を両立させた魔法=フリー移籍

 マロッタがこの5年間手がけてきたチーム強化において、このイタリア人コアグループの形成と並んでもう1つ際立っているのが、財政的な要請から毎年のように主力クラスの高値売却を強いられながら、契約満了に伴う移籍金ゼロのフリー移籍を意識的かつ積極的に活用し、移籍収支をプラスにしながら戦力を着実に上積みしてきたその手腕だ。……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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