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【新連載】伊沢拓司流プレミア観戦3大ポイント!この点、スパーズは安心して応援できるクラブなのです

2024.03.16

the SPURs for the Spurt 〜N17から眺めるプレミアリーグ〜 #1

熾烈な上位争い、世界中から集まる有望株、終わることのないマネーゲーム……欧州サッカーの中心となったプレミアリーグが、なぜここまでの地位を手に入れたのか、そして今後どうなっていくのか。“クイズ王”としておなじみの伊沢拓司が、敏腕経営者ダニエル・レヴィ率いるトッテナム・ホットスパーを通して、プレミアリーグ活況の要因と未来の展望について語っていく新連載がスタート!

 こんにちは、伊沢と申します。普段はQuizKnockというメディアを運営しながらテレビに出ています。

 趣味としてここ10年ほど、トッテナム・ホットスパー(以下スパーズ)を中心にプレミアリーグのファンです。何度かfootballistaさんには寄稿させていただいてたんですが、ついに連載開始と相成りました。カッコつけた連載タイトルはあんまり本質ではなくて、「プレミアリーグのここ10年での躍進(Spurt)について、その要因(拍車をかけたポイント=SPURs)を探る」みたいなことです。スパーズを中心に語ることにはなりますが、プレミアリーグを俯瞰するような内容を目指していきますので、どうかひとつご贔屓に。

 スパーズの魅力って、「なんでもある程度上手にやってる」ことだと思っています。チーム運営が丁寧で、リスクに対しても目端が利いているので、どんなポイントについても何かしらの手を打っているわけです。やってないのはオーナーからの資金注入くらい……といっていたら、ついに昨年やりましたし。つまり、スパーズはプレミアリーグを語るうえで、避けては通れないクラブなのです。このモンスターリーグを眺めるにあたっては、とても良い題材だと思っています。

 ということで初回は、簡単な論点整理をしましょう。個々の事象について深堀りするのは次回からにして、主にピッチ外の「ここさえ抑えておけば!」というポイントを、大きく3点、スパーズの立ち回りを例にしてまとめていきます。普段からのfootballista読者さんには基礎的すぎるやもしれませんが、初回ゆえお許しください。

・お金の稼ぎ方

 スポーツチームはもちろん勝つことが仕事なわけですが、そもそも会社として運営されている以上はお金を稼がねばなりません。いくら試合でバカ勝ちしたとしても、会社が存続できなければ意味がないわけです。マッチデー収入、グッズ売上、スポンサーロゴなどの広告料、放映権料、選手売却益……フットボールチームの収益源はさまざまですが、どこに主軸を置くかはチームの色が出る部分です。

 プレミアリーグ全体で見ると、ここ10年での収益はコロナ禍を除き右肩上がりで増加しており、リーグとしての人気を感じることができるでしょう。『デロイト』による統計『フットボールマネーリーグ』では、毎年収益が多い上位クラブを発表していますが、トップ20のうち2023年は11クラブ、2024年は8クラブがプレミア所属でした(トッテナムは本年度8位、プレミアでは4位)。その支配的な立ち位置がうかがえます。

 実は、スパーズはこうした収益への意識を強く持っていた、最初期のクラブです。「プロクラブ」としての意識を強く持っていた……とも言い換えられるでしょう。1983年、世界で初めて株式市場に上場したスポーツクラブが何を隠そうスパーズでした。これによりプレミア全体に商業化の流れを呼び込み、放映権料も高くなり、のちのプレミアリーグ結成へと道が拓かれていくのです。古くからしっかりとしたマネタイズに成功したことが、現在まで続くプレミアリーグ成功の基盤かもしれません。

 もちろん、商業的成功の要因はこれだけではありません。オーナーによる大規模な資金注入もまた、プレミアリーグ伸長を支えたポイントです。オイルマネーやロシアマネーが入り込み、世界中から質の高い選手が集まりましたが、異常とも言える移籍金高騰も招いてしまいました(そうした投資を呼び込めたのは、元からブランド価値が高かったからでもありますが)。

 また、高く買うクラブがあれば高く売るクラブもありますから、売る側からすると選手売却が大きな経営の軸になり得ます。ブライトンなんかは好例ですね。スカウティングに投資して安価で戦力を獲得して高額で売却、2023年は売却だけで2億ポンド近くを稼ぎ出し、プレミアリーグからもらえる年間の放映権料を軽々と超えてきました。10年前のスパーズを見ているかのような、いやそれ以上の「売り上手」ぶりには、プレミアリーグの多様な「勝ちパターン」を感じます(何を勝ちとするかはチームそれぞれです)。……それがうまくいかなくて沈んでいくクラブもまた、ごまんとあるんですが。

今年2月のプレミア第24節ブライトン戦で。ピッチ内でも昨季はトッテナム(8位)を上回る6位に躍進した相手に、昨年末のアウェイ戦では4-2で敗れたものの、このホーム戦は2-1で逆転勝利を収めた

 一方で、UEFAのFSR(Financial Sustainability Regulations)やプレミアリーグのPSR(Profitability and Sustainability Rules)など、クラブの財政規律に関する取り決めは厳しく、それゆえに2024年冬の移籍市場はまさに厳冬とも言える消極的なものになりました。多少の負債をものともせず多くの資金を使っていた各クラブは、今まさに岐路に立たされています。スパーズはこの点、かなりの健全経営で安心して見ていられるんですよね。どう稼ぎ、どう使うかが、プレミアリーグの各クラブを特徴づける第一のポイントだと言えるでしょう。

・長期プラン

……

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Profile

伊沢 拓司

私立開成中学校・高等学校、東京大学経済学部卒業。中学時代より開成学園クイズ研究部に所属し開成高校時代には、全国高等学校クイズ選手権史上初の個人2連覇を達成。2016年に、「楽しいから始まる学び」をコンセプトに立ち上げたWebメディア『QuizKnock』で編集長を務め、登録者数200万人を超える同YouTubeチャンネルの企画・出演を行う。2019年には株式会社QuizKnockを設立しCEOに就任。クイズプレーヤーとしてテレビ出演や講演会など多方面で活動中。ワタナベエンターテインメント所属。

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