松本怜CROに聞く『#トリつく』『圧倒的ニータン』の背景にある想い
トリニータ流離譚 第3回
片野坂知宏監督の下でJ3からJ2、そしてJ1へと昇格し、そこで課題を突きつけられ、現在は下平隆宏監督とともにJ2で奮闘する――漂泊しながら試練を克服して成長していく大分トリニータのリアルな姿を、ひぐらしひなつが綴る。第3回は長い間、選手としてクラブを支えてきた松本怜CROにフロントとしての日々、そして『#トリつく』や『圧倒的ニータン』などのプロジェクトの狙いを聞いた。
「二足の草鞋」を履く多忙な毎日
今季、松本怜は大分トリニータのCRO（クラブ・リレーションズ・オフィサー）という肩書きを背負って大分フットボールクラブに入社した。
25歳だった2013年に横浜F・マリノスから期限付き移籍で加入すると、翌年は移籍期限を延長し、さらに翌年には完全移籍へと切り替えて10シーズン。J2降格、J3降格、J2からJ1への2段階昇格、そして2度目のJ2降格と、そのサッカー人生を激しく浮沈するクラブとともにしてきたアタッカーだ。50m5.8秒のスピードを武器に、経験を積む中で戦術理解度を高め、卓抜したサッカーIQでチーム戦術の遂行に尽力してきた。
北海道生まれで青森山田高校OB。早稲田大を経て横浜FMでプロ生活をスタートし、成長の機会を求めてやって来たのはまったく無縁だった九州の小さな地方クラブ。その大分の街や人や風土に馴染み愛着を感じて、いつしか大分の地に根を下ろすことに決めた。大分在住の女性と結婚し、3人の子宝にも恵まれ、大分市内に家も建てた。
そろそろ現役引退も視野に入れようかと考えていた矢先の2022年限りで、契約満了を告げられる。ただ、それは同時にクラブのフロント入りも合わせた提案でもあった。
35歳の誕生日が目前というタイミング。クラブやクラブを取り巻く人たちのためにやりたいことも見えてきつつあったが、もう少し現役生活を続けたい思いも残る。そんな逡巡をすべて叶えるように、松本は二足の草鞋を履くことを選んだ。
🔵🟡松本 怜選手 C.R.O.就任のお知らせ
松本 怜選手の契約満了に伴い、クラブ・リレーションズ・オフィサー（C.R.O.）に就任することが決定しましたのでお知らせいたします。https://t.co/KJ05v4cM68 pic.twitter.com/oqBaAR1qZY— 大分トリニータ / Oita Trinita (@TRINITAofficial) November 25, 2022
トリニータのスポンサーでもあるジェイリース株式会社が運営するジェイリースFCにプレーヤーとして加入し、九州リーグからJFL昇格を目指しながら、大分FCの社員として働く。そんな方法を選ぶことができたのも、大分FCとジェイリースの良好な関係あってこそだった。
毎朝6時に起床して、ジェイリースFCの練習へ。自主練まで終えて11時過ぎに帰宅し、シャワーと昼食を済ませて大分FCの事務所に出勤する。トリニータのCROとして社内外を駆けずり回り、夕刻に退勤した後はイクメンへと変身。3人の子供たちを風呂に入れて寝かしつけ終わるのが21時頃で、そこから体のケアをしてようやく就寝するというタイムスケジュールだ。
ピッチで献身的に走っていた松本は、会社でもよく走る。その働きぶりは大分FCの小澤正風社長も「大丈夫？ 頑張りすぎてない？」と気遣うほどだが、九州リーグ、会社員、パパ業とあらゆる局面で新人状態の毎日は非常に充実していると、松本は笑った。
「CROとして会社から特にこれをしろと課されることはさほど多くないんです。自分で考えて動く。大分トリニータを一人でも多くの人に応援してもらうために自分に何ができるのかを、日々考えています」
足を運んで感じた「町おこし」との相乗効果
CROとして松本がなにより先に取り組んだのはスポンサー訪問だった。……
Profile
ひぐらしひなつ
大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note：https://note.com/windegg
