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アルテタ・アーセナルを体現する激情家。批判と嘲笑を乗り越えたグラニト・ジャカの物語

2023.06.29

せこの「アーセナル・レビュー」第2回

ミケル・アルテタ監督の下で一歩ずつ着実に再建を進めているアーセナル。その復活の軌跡をいち“グーナー”(アーセナルサポーターの愛称)でありながら、各国リーグ戦から代表戦まで様々な試合を鋭い視点でわかりやすく振り返っているマッチレビュアーのせこ氏がたどる。第2回では、今夏の退団が噂されているグラニト・ジャカの視点から、2022-23シーズンを振り返る。

 自分はサッカーゲームをやるのが趣味である。もちろん使うのはアーセナル。シーズンモードのようなもので選手を移籍させながら、(現実のアーセナルにはなかなか手が届かない)プレミアリーグやCLの優勝ができるチームを作り上げる。多くのサッカーファンが興じているであろう楽しみ方に打ち込んでいたのである。

 そういう遊び方をしている人ならばわかると思うが、たまに自分がゲーム内で行った移籍が実際の世界でもシンクロして起きることがある。ゲームで現実を先取りしてしまうパターンだ。このような経緯で入団した選手には普通の新加入選手以上の愛着が湧くものである。

 というわけで自分とグラニト・ジャカの出会いは普通の新加入選手以上に特別なものだった。ゲームで前々所属のバーゼルから彼を直接獲得した自分よりも現実はだいぶ遅れることとなったが、アーセナルは2016年夏にボルシアMGからジャカを獲得することとなった。

アーセナル待望の丈夫なキャプテン

 加入直後からコンスタントに出番を得ることに成功した「現実の」ジャカ。真っ先に自分が感じたのは彼が他のアーセナルの選手に持っていない2つのものを持っていることだった。1つ目は感情を表に出す性格である。一昔前のアーセナルに対する決まり文句は「キャプテンシーのある選手がいない」という指摘であった。

 バックラインはローラン・コシエルニーやペア・メルテザッカーといった寡黙で実直なタイプが黙々と仕事をしており、前線はアレクシス・サンチェスという浮き沈みが激しいキャラクターの選手が軸となっていた。頼もしいが他のチームメイトを盛り立てるタイプではない。中盤に組み込まれたジャカはそうした役割を担えるような熱量をピッチで表現していた。キャリアを重ねればキャプテンマークを巻いている未来を想像するのは難しいことではなく、加入4年目の2019-20シーズン序盤には晴れて新主将へと任命された。

2019-20ELグループステージ第1節フランクフルト戦で新キャプテンとしてチームをまとめるジャカ

 もう1つは丈夫さである。アーセナルのMF陣は特にケガ人の多さが際立っていた。サンティ・カソルラ、ジャック・ウィルシャー、アーロン・ラムジー。晩年のメスト・エジルもここに加えていいだろう。トマシュ・ロシツキーから連なるガラスの中盤の系譜が受け継がれてしまっていた。

 上に名前を挙げた選手はいずれも偉大であることに違いはないが、負傷でキャリアが狭まってしまった感も否めない。儚さもロマンがあるのは確かだが、チームの軸を担うためには故障が少なく丈夫であることが最低条件なのが現代サッカーである。

 ジャカは移籍してからの7シーズンではどのシーズンもまとまったプレータイムを得ている。最も出場試合数が少なかった2021-22シーズンでは長期離脱こそあったが、それを除けば4試合以上続けてリーグ戦で出場がないことはなかった。

2021-22プレミアリーグ第34節マンチェスター・ユナイテッド戦で、勝利を決定づけるチーム3点目(3-1)を得意の左足で叩き込み、笑顔で両腕を広げて膝滑りするジャカ。アーセナルではここまで公式戦297試合23ゴール29アシストを記録している

主将はく奪「事件」で失った居場所

 こう書くとアーセナルは長年待望の丈夫なキャプテンを手に入れたかのように見える。しかしながら、ジャカのアーセナルでのキャリアはそこまで順風満帆なものではなかった。……

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Profile

せこ

野球部だった高校時代の2006年、ドイツW杯をきっかけにサッカーにハマる。たまたま目についたアンリがきっかけでそのままアーセナルファンに。その後、川崎フロンターレサポーターの友人の誘いがきっかけで、2012年前後からJリーグも見るように。2018年より趣味でアーセナル、川崎フロンターレを中心にJリーグと欧州サッカーのマッチレビューを書く。サッカーと同じくらい乃木坂46を愛している。

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