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【ささゆかのW杯遠征記】労働者問題は他人事じゃない。「テーマパーク」と化した開催国カタールのうらおもて

2022.12.18

社会から文化まで!W杯スペシャルコラム

今やいちスポーツのビッグイベントの枠を超え、様々な影響を与えるワールドカップ。社会や文化など、オフ・ザ・ピッチのトピックについて論じる。

18日の決勝をもって、ついに閉幕するカタールW杯。世界中を盛り上げた4年に一度の祭典では、グループステージ全48試合だけでも計240万以上の人々がスタジアムに駆けつけ、日本からも数多くのサッカーファンが中東へと飛び立った。

TwitterやYouTubeでサッカー観戦の文化や魅力を発信しているささゆか氏もその1人だが、実は3年前の滞在経験からW杯開催国にトラウマを抱えていたという。その因縁の地で味わった「テーマパーク」化に思うこととは。

 「この国にはもう二度と来ない!!」

 2019年12月、クラブW杯でカタールを訪れた時、帰り際に心の中で叫んだ。

 どこを見ても工事中の無機質な塀だらけ、50cm程度しかない狭い歩道。現地の人が見慣れないアジア人である私をジロジロ見る目線に所在なさを感じる。「リバプールの試合が見たいし暖かい国に行こう、多分英語も通じるよね。カタールもそんな感じでいけるでしょ!」と下調べもせず飛び込んだのがよくなかった。

2019年12月に筆者が撮影した、歩くのもやっとの幅が50cmしかない歩道(Photo: Sasayuka)

 しかし、渡航する日本人があまりにも少ないから羽田空港でも現地通貨に両替ができないとか、看板に一切英語表記がないのは誤算である。カタールの空港に到着した途端、解読できないアラビア語の羅列にめまいを起こしながら、なんとかスタジアムまで移動。準決勝モンテレイ対リバプールの試合中は隣の席に座った現地の小学生がリバプール失点の度に私の顔を覗き込んでくるから、こちらも負けじとモンテレイが失点する度に顔を覗き込んでやった。1日だけの滞在なのになんなんだよ、もう。

筆者が現地観戦したモンテレイ対リバプールの選手入場シーン

 帰り道、これまでのアジア旅行で喧騒に慣れている私も明らかに差別的な意図を持って鳴らされるクラクションの音で、少し滅入ってしまっていた。この国、よくW杯ホスト国に名乗りを上げたな……。

街の変貌ぶりに思う人権問題の身近さ

 3年後の2022年。なぜか二度と来ないと宣言したカタールの地にまた降り立っていた。W杯現地観戦は長年の夢だとかなんとか言いながら記憶を塗り替えにきたのである。

 カタールは様変わりしていた。今、私の目の前に広がる景色は美しく整備された歩道に優しい色合いの建物とトラム。公園のような広い道には大画面の前にビーズクッションが置いてあって、人々はのんびり温暖な潮風を浴びながら昨晩の試合を見て過ごしていた。

サッカーボール型のクッションでくつろげるリゾート(Photo: Sasayuka)

 W杯期間限定の看板ではあるが、英語表記とピクトグラムのおかげで現在地もわかりやすい。これぞ理想の観光地、FIFAとカタールの札束で殴ってくるような街づくりである。

W杯開催期間限定で設置されている看板(Photo: Sasayuka)

 本音を言えば、世界屈指のリゾートに大変貌を遂げていた光景に感嘆よりも先に不気味さを味わってしまった。大会前から囁かれているスタジアム建設の労働者問題が頭をよぎる。観光客として間接的にしか見ていないが、これほど急速に街が変貌を遂げているのなら相当きついスケジュールが組まれているだろう、と察した。

2019年12月に筆者がタクシーから撮影した建設中のアルトゥママ・スタジアム(Photo: Sasayuka)

 ふと、以前働いていた会社でエンジニアが無茶なタイムスケジュールの案件に苦しんでいた様子を思い出す。休憩時間もなく泊まり込みで働くのは業務委託の人間だった。都内一等地、一見華やかなオフィスビルの中には機械の熱によって極限まで暑くなった部屋が存在している。あの部屋で汗を流しながらコードとにらめっこしている彼らと、カタールに駆り出されて灼熱の環境でスタジアム建設をしている移民の姿がどうにも重なって仕方ない。

 「人権問題」と聞くとスケールに圧倒されるけれど、身近なことが自国でもサッカー界でも起きているのだ。すでに一部作業が始まっているスタジアムの解体でも、また同じ問題が起きるのだろうか。やけに浄化された街とは反対に、私は心にかげりを落としていた。

様変わりしたカタールの街並み。ヨーロッパのような優しい色合いで統一されている(Photos: Sasayuka)

触れ合えないマスコットが大人気の理由

 過酷な労働や開催地誘致の収賄疑惑がなければ、文化理解の場として中東開催はとてもいい機会だと感じている。アメリカ同時多発テロ事件以降、映画に出てくるテロリストはイスラム系の宗教やイデオロギーによって悪を起こす存在として描かれることばかりで、初めてテロリスト役以外のオーディションが来たのが『ボヘミアン・ラプソディ』のフレディ・マーキュリー役だった、と語る俳優ラミ・マレックのインタビューが印象的だったのだ。生まれた場所や同じ宗教を信仰するだけの人々が犯罪者と同じように扱われる機会は失くしたい。

 そういった文化理解の側面として特に生きていたのは、公式マスコットLa’eeb(ライーブ)の存在だ。Jリーグほどマスコットが重視されていない国際大会では「子供用のおもちゃと宣伝用だけに作られたマスコット」で終わってしまうことが常だった。……

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Profile

ささゆか

1988年東京生まれ、フェリス女学院大学卒。 外資インフラ広報経験を活かしたマーケティング考察やマスコット情報、サッカーを取り巻く社会問題を中心に執筆・イベント出演など活動中。YouTube「ささゆかチャンネル」では記事の印象とは違う素顔が楽しめる。夢は沢山の海外クラブストアを巡り、世界中のマスコットと会うこと。

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