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映画とフットボールをつなぐ音楽界の巨匠。ハンス・ジマーの世界

2020.05.22

 自粛生活のため自宅で映画を見る機会も増えたはずだ。だからこそつくづく思うことがある。映画とフットボールは似た者同士だと。どちらも監督が必要だし、どちらも熱烈なファンによって支えられている。そしてもう1人、どちらにも欠かせない存在がいる。そう、ハンス・ジマーである。

MLS25周年の新アンセムを作曲

 映画好きの方には説明不要だと思うが、彼は映画音楽界の偉大な作曲家だ。誰もが一度は彼の曲を耳にしているはずだ。アカデミー作曲賞とゴールデングローブ賞を受賞した1994年公開の『ライオン・キング』のテーマ曲の他、これまで数え切れないほどの名作で音楽を手がけてきた。

 『レインマン』『恋愛小説家』『クール・ランニング』『グラディエーター』『パイレーツ・オブ・カリビアン』『シャーロック・ホームズ』『ラストサムライ』『バットマン ビギンズ』など、挙げ始めたらきりがない。

 そんな映画音楽界の巨匠は、サッカー界にも音楽を提供している。今年2月、アメリカのMLS(メジャー・リーグ・サッカー)が発足25周年を記念してアンセムを発表したのだが、それを手がけたのがジマーだった。

 完成した音楽についてスポーツ情報局『ESPN』は、リドリー・スコット監督の『グラディエーター』やクリストファー・ノーラン監督の新生『バットマン』シリーズといった、壮大な映画に欠かせないジマーらしい音楽要素が取り込まれていると称賛する。

 実際に聞いてみると、確かに『パイレーツ・オブ・カリビアン』の戦闘シーンで流れてもおかしくないような迫力あるベースドラムが印象的だ。「サッカー以上に人の心を動かすものはない」とジマーは語る。「MLSアンセムの楽曲はスリリングな挑戦であり、とても光栄なことだった。MLSの精神とそのサポーターにふさわしいアンセムを作曲した」

独学で音楽を学び、才能を磨く

 ジマーがフットボールの音楽を手がけるのはこれが初めてのことではない。ビデオゲーム『FIFA 19』の音楽に携わったことがあるし、何より2018年ワールドカップ・ロシア大会で公式テーマ曲を制作している。大会期間中は日本のTV放送のオープニングでも必ず流れていた曲なので、聞き覚えはあるはずだ。

 そんなジマーだが、実は正式に音楽を習ったことはないという。ドイツ生まれのジマー(本来の発音は“ツィマー”であるべきか)は、10代で英国に渡って高校を出ると、音楽バンドでキーボードやシンセサイザーを担当して下積み生活を送った。世界的に大ヒットしたバグルスの『ラジオ・スターの悲劇(Video Killed the Radio Star)』(1979年発売)では、サポートメンバーとしてキーボードを演奏したそうだ。

 そうやって独学で音楽の才能を磨き、現在の地位にまで上り詰めたジマーは、自身の学歴について過去のインタビューでこう語ったことがある。

 「音楽学校や大学を出ていないことで、新しい映画に取り組む際には勉強が必要になる。大変なことだが、それが楽しいのさ。『ダ・ヴィンチ・コード』に取り組んだ際には、1年ほどかけてダ・ヴィンチや絵画について学んだんだ」

 そんな飽くなき探求心で数々の名曲を生み出してきたジマー。今後も銀幕の世界はもちろん、スポーツ界にも美しい楽曲を提供してくれることだろう。

 ちなみに、MLSはジマーの公式アンセムが収録されたアルバムのジャケットデザインを5月24日まで公募している(アメリカ在住者のみ対象)ので、興味がある方は応募してみてはどうだろうか。


Photo: Getty Image

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文化

Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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