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「マネージャーとしての監督」を育成する。ドイツ3部クラブの新たな挑戦(前編)

2020.01.14

 2019年7月、ドイツ3部のウンターハヒンクがミュンヘンの株式市場に上場した。それまではドルトムントが上場しているドイツ国内唯一のクラブだったが、これで国内2クラブ目の上場クラブが誕生したことになる。

 人口およそ2万5000人のミュンヘン近郊の街ウンターハヒンクに本拠を構えるこのクラブは、上場初日にファンや投資家が8.10ユーロ(約1000円)の株を33万2469株も購入し、約270万ユーロ(3億2400万円)の資金を調達した。

 バイエルンや1860ミュンヘン、アウクスブルクなど、近くにライバルがひしめくなか、資源の限られた地方の小クラブが打った次の一手が「マネージャーとしての監督」の養成だ。『インターナショナル・フットボール・インスティチュート(IFI)』と提携を結び、コーチングスタッフに6カ月間の養成コースへの参加を義務付けたのだ。ドイツ誌『ソクラテス』が伝えている。

マネジメントの領域を補足したカリキュラム

 このコースの責任者であるフロリアン・カインツ教授は、サッカー監督がマネジメントを学ぶ意義を次のように説明している。

 「ドイツ国内には、サッカーに関する専門的な知識を備えた指導者は大勢いる。しかし、彼らの中には社会的なコミュニケーション能力や、チームを率いる能力に問題を抱える指導者も多い。我われはサッカーのコーチングライセンスのカリキュラムを調査し、うまくカバーされていない領域を探し出した。『スポーツ心理学的なコミュニケーション』、『チーム経営』、そして『スーパービジョン』の領域は、カリキュラムではそれほど重視されていないようだ」

 つまりウンターハヒンクの養成コースは、サッカー監督として必要な能力のうち、ピッチ上の運動面に偏っているライセンスのカリキュラムに、マネジメントの領域を補足することを目的としている。

「より重要なのはチーム経営に長けた監督」

 カインツ教授はマネジメントの観点から、監督を雇う際に“戦術的な理解”と“チーム経営”のどちらが重要か、という質問に対しても、「どちらも重要だが」と前置きした上で「どちらか一方を選ぶなら、チーム経営に長けた監督を選ぶべきだ」と答えている。

 「なぜなら、プロを含めたエリートレベルのサッカーで、チームの成功を収めるには、さまざまな専門的な能力を備えた人々を“チーム”として機能させなければならないからだ。戦術やサッカーに関する様々な能力を備えたスタッフは、監督自身が選んで雇い入れることができる。しかし、チームがあるべき方向に向かって進んでいくためには、経営能力が必要なのだ」

 求められる能力がますます細分化し、専門的になり、スタッフが増えるにつれて監督の役割が変わりつつあるのはすでに周知の事実だ。サッカークラブのトップチームには選手やコーチングスタッフの他にフィジカルコーチ、メディカルスタッフなどが在籍しており、それらを束ねる監督は、経営者として複数の部門にわたる数十人のスタッフを抱えているようなものだ。人が増えるほど管理・運営能力やコミュニケーション能力も必要とされる。

 次回は、経営者に求められる能力のなかでも特に重要な部分に焦点を当てながら、さらに詳細を見ていこう。


Photo: Getty Images

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コーチングライセンスドイツマネージャー養成

Profile

鈴木 達朗

宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。

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