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ブンデスリーガのスカウト戦略(2)2部・カールスルーエの場合

2019.09.19

ブンデス2部昇格組の規模感…Jリーグとの比較 

 前回の記事では、ボルシア・メンヘングラッドバッハのケースを見ながら、欧州のコンペティションで戦うための選手獲得には、どの程度の予算規模、選手獲得戦略があるのかを追った。

 今回は、ブンデスリーガ2部のカールスルーエを見ていく。かつて山田大記(現ジュビロ磐田)が活躍したことで、名前を覚えている人たちもいるだろう。2016-17シーズンに3部へ降格し、2シーズンを過ごしたあとに今季から2部に復帰したクラブだ。

 『transfermarkt』の選手全員の推定評価額は930万ユーロ(約11億円)と、ドイツ2部でも最下位の予算規模だ。ちなみに、シュトゥットガルト、ハノーファー、ハンブルクやニュルンベルクといった規模の大きな“元1部”クラブを除いた14チームのブンデス2部の選手の価値総額はおよそ平均1484万ユーロ(約17億8000万円)と、J1の下位、J2上位チームとほぼ肩を並べる規模と推定されている。

 このことから、ボルフスブルクのピエール・リトバルスキーをはじめ、ドイツのスカウトたちがJリーグをブンデスリーガ2部の上位のレベルとクラス分けしていることにも合点がいく。

カールスルーエのスカウティング、予算・戦略は?

 『ビルト』によれば、3部で2年を過ごしたことで、予算規模は大きく縮小し、スカウティングにかけられる年間予算はわずかに5万ユーロ(600万円)。現在は10年前からスタッフとしてフルタイムの契約をしたチーフスカウトのローター・シュトレーラオ氏とスポーツディレクターのオリバー・クロイツァー氏の2人でトップチームの選手獲得にあたっている。

 スカウティングのターゲットとなるのは、ドイツ国内の2部、3部、そして4部およびU-19ブンデスリーガだ。国外では、オーストリアおよびスイスを主に見て回り、まれにフランスとデンマークにも視察にいくという。

人材不足を補うデジタルツール、SAPの『Sports One』

 学校で体育の教師をしながら80年代からカールスルーエでトップチームの分析・スカウティング、およびコーチングスタッフとして関わってきた74歳になるシュトレーラオ氏。未だに年間150〜180試合の視察に訪れ、車での走行距離は7万キロを超える。さらに、飛行機や電車での移動も加わる。

「少し狂っていて、自分のやっていることを愛していないと、この仕事はやっていけないよ」

 そうシュトレーラオ氏は話す。少ない予算の中でやり来るするためには、データの効率的な処理も必要だ。カールスルーエでは、SAPの『SAP Sports One』のスカウティング機能を使っている。

 事前にアロイス・シュバルツ監督とディレクターのクロイツァー氏が必要な選手のタイプやパラメータを作成。シュトレーラオ氏がスカウティングを行い、現地に赴きスカウティングレポートを作成。データ化した情報を、クラウドで処理。そのデータをクロイツァー氏が読み、データ内にあるビデオを見ながら選手を絞り込んでいく。この作業を経て、納得できた選手の場合は、クロイツァー氏とシュトレーラオ氏が2人で現地で試合を見て、獲得の判断を行う。

激化する競争、欠かせないスピード感

 オランダ、チェコ、ポーランドへのスカウト網の拡大も計画にあるが、実行に移すには、まだ予算が足りない。「計画通りに行おうとすれば、およそ15万〜18万ユーロ(約2000万円)はかかるだろう」とクロイツァー氏は話す。

 シュトレーラオ氏は、「まだ他の誰にも発掘されていない選手を見つけ出す作業は、年々難しくなっている」と言う。それに加えて、予算が限られているなかでは、選手獲得で繰り返し失敗するわけにはいかない。また、タイミングも重要だ。狙いを定めた選手が、他のクラブとの交渉を開始する前に、自分たちがオファーを出し、一気に契約をまとめてしまわなければならない。

 2012年に獲得し、2年半で24得点を挙げたオランダ人ストライカーのコーエン・ファン・デル・ビーゼンは好例だ。

12〜14年にカールスルーエに在籍し、活躍したファン・デル・ビーゼン

「彼を獲得できるタイミングは本当にわずかだった。ちょうどパーダーボルンの合宿にテスト生として参加していたんだ。朝6時に彼の下に赴いて、クロイツァーディレクターも後から合流させ、その場で契約をまとめたんだ」

 現在の注目株は、ルクセンブルク代表の21歳、左サイドバックのディルク・カールソン。将来性を見込んでグラスホッパー・チューリッヒのU-21から移籍金なしで獲得した選手で、クラブも獲得に大満足の選手だ。

 今回は、ドイツ国内で予算規模がJリーグに近いクラブの動きを辿った。クラブの降格によって被る経済的損失が、クラブの発展に与える影響も理解できるものとなった。一言で「ドイツ」といっても経済規模によって、動き方も全く異なる。クラブ経営がグローバル化し、システムの体系化も進んで行く以上、今後は国による区別よりも経済規模によって各クラブの運営面での動きに共通項を見出すようになるのだろう。

Photos: Getty Images

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カールスルーエ移籍

Profile

鈴木 達朗

宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。