独女子代表監督が赤裸々に語る女子サッカーの気になる待遇面

依然としてジェンダーギャップは残るが
「私たち女子サッカー監督たちは、男性社会で働く準備はできている。それは、聞くまでもないでしょう。男性社会のほうが、まだその準備ができていないのです」
4月29日付の『キッカー』のロングインタビューに登場したドイツ女子代表監督、マルティナ・フォス・テックレンブルクの言葉は、ドイツ国内でひとつの問題提起として大きく取り上げられた。
ドイツ国内でも、男女平等はテーマにこそなっているものの、給与面や職業上のポストにおいて、未だに男性優位のジェンダーギャップが残っているのが現状だ。サッカー界でも、この状況は反映されており、たびたびテーマとなっている。
マーケットの大きさがケタ違いに異なることもあり、男子サッカー界と比べれば、注目度や報酬を含む待遇面でも大きな差があることは否めない。だが、女子サッカー界の歩み自体を辿れば、大きな変化もあるようだ。
1984年から2000年までドイツ代表選手としても活躍し、2010-11シーズンには監督として元なでしこジャパンの安藤梢がプレーしたデュースブルクを指揮していたフォス・テックレンブルク監督は、自身のキャリアを振り返る。
「私がサッカー監督として生きていくイメージが描けるようになったのは、ドイツサッカー連盟が女子ブンデスリーガの監督と経営の領域に経済的な支援を行うようになってからです。州のサッカー連盟では長いこと働いていましたが、デュースブルクの監督になったのは、40歳を過ぎてから(08年)ですからね」
現在ではミュンヘンの保険・金融大手のアリアンツがスポンサーに付くなど、女子ブンデスリーガもプロ化が進んでいる。それでも、選手の報酬面では、イングランドやフランスに見劣りするようだ。
フォス・テックレンブルク監督は、「(イングランドのトップクラブやフランスのリヨンの)エースクラスなら、最大で20万ユーロ(約2600万円)ぐらいはもらっているんじゃないでしょうか。それぐらいが現実的だと思います」と話す。
ボルフスブルクのマネージャーであるラルフ・ケラーマンが「リヨンでは、ボルフスブルクの3倍の報酬を稼げることは、この業界では暗黙の了解だ」と話していたこともあり、ドイツ屈指の強豪クラブでも、年俸が1000万円に届かないことが予想される。

男子代表マネジメントからのサポート
自身の選手時代の報酬は「月に700マルク(約5万円)ぐらいでした」と笑う監督は、報酬面だけではなく、代表の運営面でも大きく変化したことを実感している。
とりわけ、ドイツ代表では、男子代表マネジメントから手厚いサポートを受けられるようになったという。
「オリバー・ビアホフマネージャーとは、定期的に連絡を取り合っていますし、ドイツ代表のマネジメントやアカデミーは、私たちに全面的に協力してくれています。これにより、以前にはなかったメリットを享受できています。ヨアヒム・レーブ監督とも連絡を取り合い、助けとなってくれています。素晴らしい共同作業ができるようになりました」
サッカーは社会を映す鏡という側面がある。歴然としたジェンダーギャップは存在するものの、それを認めた上で、結果を残し続けるドイツ女子サッカー界には、国内から共感の念が集まっている。6月にフランスで開幕する女子ワールドカップでは、再びドイツ中の声援を背に受けることだろう。
Photos: Getty Images
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Profile
鈴木 達朗
宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。