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「李下に冠を正さず」。どういう結末になろうと、審判買収疑惑によるバルセロナのイメージ悪化は避けられない

2023.02.21

 バルセロナが2016年から18年の間、当時の審判委員会副会長に140万ユーロ(約1億9600万円)を払っていたことが問題になっている。

 何のために? この元副会長によると「試合中に反クラブのジャッジをされるのを防ぐため、言い換えれば中立なジャッジのため」。

 中立なジャッジのために、とんでもない高額を払う必要があった???

 この報道に対してバルセロナのジョアン・ラポルタ会長は「チームが今季最も好調なタイミングでこの情報が出たのは偶然ではない」と陰謀の可能性を匂わせたが、元副会長への捜査は税務調査を経て汚職の疑いあり、ということで検察の手にある。検察の捜査にタイミングの良し悪しはないし、この人物に巨額の支払いがあったのは動かない事実である。

 その後、実はこの元副会長への支払いは2001年から行われていて2018年を最後にジョセップ・マリア・バルトメウ前会長が中止したことがわかった。18年間の支払い総額は700万ユーロ(約9億8000万円)で、その中にはラポルタ第1次政権の任期中も含まれている。

掘り返される支払前後の変化

 ビッグクラブでは、ジャッジの傾向や審判の人柄などについて調査することは当たり前になっている。だがその場合、「元審判」とか「元審判部長」とかが担当するのが普通だ。バルセロナのケースで問題なのは、当時「現役」の、審判の上司に当たる「副会長」に対して、理由も使途も不明瞭な巨額が20年近くも支払われていたことである。

 当然、“審判買収”の憶測を呼び、2016-18にバルセロナは78試合連続でPKを与えなかったとか、相手チームが33回のPKを与えたのに対しバルセロナのそれは3回だったとか、相手チームの退場者が23人だったのに対してバルセロナのそれは4人だったとか、支払いを止めた2019-21は笛の傾向が変わって、相手チームへのPKが30回だったのに対しバルセロナのそれは16回、退場者も相手チームが21人、バルセロナのそれが15人とそれぞれ急増した、とかいった“疑惑のデータ”がほじくり返されている。元副会長に支払われた大金は口座から消えており、不動産や贅沢品などの購入に使われた形跡はない。“もしかして各審判に手渡しされた?”という見方もある。

モラル的な問題は免れない

 とはいえ、1部リーグの主審は20人いる。彼らを買収して、しかも内部告発を防ぐことなど可能なのだろうか?

 個人的には不可能だと思う。ということで、“バルセロナ、大ボラを吹く人物に騙されて大金払った説”も出ている。支払いストップに抗議して「いろいろな不正を暴露するぞ」と脅迫したという、元副会長の怪しからぬ人間性も明らかになっている。

 なお、仮に買収があったとしてもスペインのスポーツ法では時効が成立済み。FIFAやUEFAの法では裁くことができるが、不明瞭な金の流れや怪しいジャッジなどの状況証拠だけでは実証は不十分。かといって、実際に手を染めた審判の告白があるとも思えない。審判全員を買収する力がある者の脇が、内部告発を許すほど甘いわけがない(もっと言えば、審判全員を買収するにはあの金額は安過ぎる)。

 よって、買収あるいは買収の試みがあってもなくても“バルセロナが詐欺の被害にあった説”に最終的には落ち着く、と個人的には見ている。

 ただ、バルセロナのモラル的な問題は免れない。ジャッジに影響力ある人物に大金を払っていただけで十分疑惑の余地があり、クラブのイメージはどう言い訳しても悪化する。

 「李下に冠を正さず」という故事がある。スモモの木の下で冠に手をやれば、スモモ泥棒を疑われてもしょうがない。人に疑われる行為はするな、ということである。

Photo: Getty Images

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Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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