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「抜け目なさや豊富な経験の方が必要と言える」アーセナル冬の補強が成功となるには

2023.03.01

 プレミアリーグで首位を走るアーセナルだが、冬の補強は十分だったのか?

 クラブは、懸念されていた箇所に1月の移籍市場で戦力を迎えた。ケガ人の影響で手薄だった前線にはブライトンからベルギー代表FWレアンドロ・トロサール(28歳)を獲得。ほぼ2枚で回していたCBには将来性も加味してポーランド代表DFヤクブ・キビオル(23歳)を加え、中盤には経験豊富な31歳のイタリア代表MFジョルジーニョをチェルシーから連れて来た。

 移籍金の最高額はトロサールで2700万ポンド(約43億円)。3人とも比較的に安価な買い物だったとはいえ、キビオル以外の2人はプレミアリーグでも経験豊富な即戦力である。総合的に考えて適材適所の悪くない補強であったように思えるが……トップ4を目指すなら十分かもしれないが、「19年ぶりのリーグ優勝」を目指すとなると果たしてどうなのか。一時公式戦4試合勝利なしと調子を落としたことも受けて、『BBC』が市場閉幕後に行っていた分析を振り返っておきたい。

“ドラ1”を逃したのは事実だが

 アーセナルが“ドラフト1位”を獲り逃したのは事実だ。最大の課題とされていた前線は、第一候補として狙っていたウクライナ代表FWミハイロ・ムドリク(22歳)をチェルシーに横取りされ、トロサールで手を打った形となった。中盤に関しても、同じくブライトンのエクアドル代表MFモイセス・カイセド(21歳)に何度かオファーを出したがあしらわれ、ジョルジーニョの獲得に切り替えた。

 いずれも本命を逃したことを考えると、物足りないようにも思えてくる。とりわけ、31歳のジョルジーニョはチェルシーがベンフィカのアルゼンチン代表MFエンソ・フェルナンデス(22歳)の獲得に成功したことで、玉突きのようにやってきた選手だ。ただ、『BBC』の記者はジョルジーニョが目では見えない重要な部分を強化してくれると主張する。「勝者の美学」である。

 確かに今季のアーセナルは、マンチェスター・シティで“勝ち癖”を磨いたFWガブリエウ・ジェズスとDFオレクサンドル・ジンチェンコの加入で変貌を遂げた。ゆえに、同じような効果をジョルジーニョにも期待できると見ている。2018年にチェルシーに加入したジョルジーニョは同クラブで加入初日からリーダーシップを発揮し、ELとCLで頂点を経験。さらに、2021年に開催されたEURO2020ではイタリア代表の主軸として決勝でイングランドを退けて、53年ぶりの欧州制覇に貢献した。同年にEURO、CL、UEFAスーパーカップの決勝に出場し、3つともタイトルを勝ち獲った史上初の選手である。

 「信じられないような素晴らしい補強」と元トッテナムのMFマイケル・ブラウンは絶賛。「アーセナルの哲学に完璧にフィットする。彼は非常に冷静な選手だし、チームにCLやEUROでの優勝経験をもたらすだろう」と語れば、英紙『The Times』のヘンリー・ウィンター記者も「なぜ一部のアーセナルファンがジョルジーニョの補強を批判するのかわからない。彼は経験豊富な勝者で、敵の攻撃を壊し、ほぼボールを失わない。少し機動力がないが、アーセナルにとって良いバックアップになる」と称えている。

 『BBC』によると、ジョルジーニョは昨季からのプレミアリーグの数字において、本命だったカイセドに負けていないという。1試合平均の「アタッキングサードでのパス」「前方へのパス」「ボールを運んだ距離」「ボール奪取回数」といった部門でジョルジョ―ニョの方が優っているという。

 若いFWムドリクやMFカイセド(21歳)は将来性を考えると非常に魅力的だが、MFマルティン・ウーデゴール(24歳)やFWブカヨ・サカ(21歳)が躍動するアーセナルは、そもそも“若さ”には困っていない。そのため『BBC』は、今冬のアーセナルの補強についてこう結んでいる。

 「プレッシャーに苛まれるシーズン終盤は、チームの和を乱しかねない高額なビッグネームの新戦力よりも、抜け目なさや豊富な経験の方が必要と言えるだろう」

 アーセナルの冬の補強は正解だったのか? その答えは、シーズンが終わった時に明らかとなる。

Photos: Getty Images

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アーセナルジョルジーニョレアンドロ・トロサール

Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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