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世代交代とスタイル変更――ビエラの“プレミア史上最も険しい挑戦”

2021.08.16

 待望の新シーズンが開幕したプレミアリーグにおいて最も困難なプロジェクトを任されているのは、今季からクリスタルパレスを率いるパトリック・ビエラ監督だろう。

 現役時代にアーセナルやフランス代表で数々の栄光を手にしたレジェンドは、73歳で勇退したロイ・ホジソン前監督の後任としてパレスにやってきた。ニューヨーク・シティやニースで監督経験があるものの、世界的な注目を浴びるプレミアリーグでは初めての采配となる。

 ただでさえ重責だが、単にチームを残留に導けばいいというわけでもない。パレスはこれを機に、世代交代とスタイル変更を同時に進めようとしているのだ。果たしてビエラに、その大役が務まるのだろうか?

開幕戦はチェルシーに完敗

 週末に行われたチェルシーとの開幕戦はほとんど参考にならなかった。ビエラ本人も「特に学ぶものはなかった」と語るように、チェルシー戦はあまりにも戦力差があった。欧州王者を相手に、パレスは主将のMFルカ・ミリボイェビッチを欠いたほか、長期離脱中のエベレチ・エゼや新戦力のマイケル・オリーセも不在だったのだ。

 そもそもパレスは今夏、スコット・ダンやアンドロス・タウンゼンドといったプレミアで計1792試合の出場数を誇るベテラン選手たちを何名も放出し、それを若い力で補おうとしているところなのだ。DFマーク・グエーイ(21歳)やMFオリーセ(19歳)などの若いタレントを連れてきたものの、まだまだ戦力はそろっていない。今夏は新たな投資家が経営陣に加わったこともあり、補強を進めながら序盤戦を乗り切る算段だ。

 だから戦力不足は否めないのだが、それでも現役時代にリーグ戦で一度もチェルシーに負けなかったビエラ(6勝4分け0敗)なら開幕戦から番狂わせを起こせるのでは、と期待したが、やはり0-3の完敗に終わった。とはいえ、ただ手をこまねいていたわけではない。

 プレシーズンでは[4-3-3]を採用していたビエラだが、この試合はウィルフリード・ザハとジャン・フィリップ・マテタを前線に残した[4-4-2]で臨んだ。その点についてビエラは「付け焼刃ではなく、1週間ほど準備してきたこと。相手の戦力を考えてだ」と説明。「コンパクトに守り、相手の守備的MFに圧力をかける。そして“ラインの間”のギャップを突こうと思った。序盤はそれなりにうまくいっていた」と試合を振り返った。

大胆な改革は成功するか

 ビエラが主張したように、マルコス・アロンソに直接FKで先制を許すまでは、何とか守れていたように思う。さらに後半途中から3バックに変更したことで、守備は安定するようになった。その反面、ホジソン政権時代のシンプルな縦への仕掛けは影を潜め、怖さが感じられなかった。

 これは最終ラインからビルドアップの意識を植え付けようとしているからであり、パレスのプロジェクトを現時点で評価するのは時期尚早だが、あまりにも大胆な改革を危惧する声も少なくない。

 英紙『Telegraph』は「ビエラは2013年にマンチェスター・シティのリザーブチームで改革に着手した経験がある」と綴り、当時の教え子の「それまでとはまったく違うスタイルだったが、監督が『ミスをしたら私の責任』と言ってくれたので自信を持てた」というコメントを据えてビエラの手腕を紹介しつつ、パレスの挑戦は「プレミアリーグ史上最も抜本的な改革かもしれない」と指摘した。

2013年からはマンチェスター・シティのリザーブチームで監督を務めた

 スポーツ専門サイト『The Athletic』は“ホジソン後の世界”を挙げる。過去にホジソンが監督を務めたフルアムは、ホジソン政権の最終年となる2009-10シーズンにUEFAヨーロッパリーグで準優勝したが、同監督が退任してからは徐々に順位を下げて4シーズン後にはプレミアから姿を消したのだ。

 さらに、パレス自身にも苦い記憶がある。2016-17シーズンにサム・アラーダイスの下で残留をたぐり寄せた後、アイデンティティの刷新を図ってアヤックスなどで指揮を執っていたフランク・デ・ブールを招聘した。しかし同監督はプレミア開幕4連敗を喫し、就任からわずか77日でクラブを去ったのだ。

 その二の舞にならないためにも、まずは戦力をそろえないといけない。チェルシー戦後に「(戦力が)足らなすぎる」と語ったビエラは“プレミアリーグ史上最も険しい挑戦”を乗り切れるのか。今シーズンのパレスに注目したい。


Photos: Getty Images

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Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。