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有観客でシーズン開幕! メッシを見たければ衛生パスポート所持が必須に

2021.08.13

 8月6日、モナコvsナント戦で、リーグ1の2021-22シーズンが開幕した。スタッド・ルイ2世のスタンドには、久々にサポーターの姿があった。黄色いユニフォームを着たアウェイチームのファンもいる。

 昨年も、規制が一時的に緩和された夏の開幕の頃は、2000人〜5000人を上限にスタンドが開放されたが、夏休みの人民大移動の影響か、その後に感染の第二波が訪れると、10月下旬の第8節からは再び無観客に戻された。だからスタンドにサポーターの姿を見るのは、約9カ月半ぶりとなる。

PSGの試合はチケット争奪戦か

 キャパシティに関しては、ロクサナ・マラシネアヌ・スポーツ担当相は「人数の規定を設けない」としているが、各クラブとも自治体との協議の下で決定しているようで、モナコの場合は上限が70%に設定されているとのこと。人数にすると最大で1万2000人までだ。

 まあ、モナコのスタッド・ルイ2世は通常でもこれくらいかそれ以下しか埋まらないのだが、この日の観客数について『レキップ』紙は7500人、別のサイトでは1万533人、リーグ1公式では「無観客」とデータはまちまち。写真を見ると、5割くらいは埋まっていた感じだ。

モナコvsナントの開幕戦は有観客で行われ、スタンドはおよそ半分ぐらいが埋まっていた

 パリ・サンジェルマンのパルク・デ・プランスは、自治体との交渉によってフルキャパシティの4万7900人の入場許可を勝ち取った。

 このお知らせが届いたのは8月9日の月曜、リオネル・メッシの入団が正式に発表される前だったが、この時点でもすでにホーム初戦の8月14日の第2節vsストラスブール戦と、9月12日の第5節vsクレルモン戦はソールドアウトになっているとのことだった。

 パルク・デ・プランスもめったに満席にはならないが、生観戦に飢えていたファンが多かったということか。メッシが登場するとなったからには、今シーズンは毎試合、チケット争奪戦になりそうだ。

ワクチン接種の加速化に向けて

 スタジアム観戦には、チケット&身分証明書というこれまでの必須アイテムに加えて「Pass Sanitaire(パス・サニテール=衛生パスポート)」と呼ばれる証明書を保持していることが絶対条件になる。

 この衛生パスポートは、次の3つの条件のうち、どれかの証明書をもって認められる。

①ワクチン接種済み証明(2回必要なものは2回とも)
②72時間以内のPCR検査で陰性証明
③過去11日から6カ月以内に新型コロナウイルスに感染していたことを示す証明書

 スタジアムだけでなく、フランスでは8月9日以降、バーやレストラン、ショッピングセンター、長距離移動のための電車やバス、飛行機などの交通機関を利用する時にも衛生パスポートの提示が義務付けられてる。違反すると問答無用で即、罰金135ユーロ(約1万7500円)。チェックせずに入場させてしまった側には、営業停止処分や多額の罰金といったさらなる厳罰がある。

 フランスではこれまで、薬局の店先や市役所など、街中の至る所で無料のPCR検査をやっていたのだが、政府は現時点で約55%とされているワクチン接種率をさらに加速させるため、症状が出ていない場合のPCR検査を有料とすることを決めた。

 1回のPCR検査にかかる値段はだいたい50ユーロ、7000〜8000円くらい。しかも綿棒を鼻に突っ込むタイプの検査が主なので、頻繁にやるのは経済的にも身体的にも厳しい。ということで、これまでワクチン敬遠派だった人でも「今まで通りの生活を送るために」やむなくワクチン接種予約に駆け込むケースが増えている(「強制的」であることに異議を唱える反対派も多くて大規模なデモも行われているが……)。

衛生パスポート所持の義務化に対し、フランス各地では大規模なデモが発生している

青少年も衛生パスポート必須に

 観戦する側だけでなく、プレーする側や関係者も衛生パスポートはマストだ。プロクラブはもちろんのこと、地域の小さなアマチュアクラブも同様に義務付けられ、それが活動を再開する上での条件となる。

 フランスサッカー連盟(FFF)は、新シーズン開幕に先駆けて7月下旬にプレスリリースを配信し、地域リーグ、全国規模で行われるフランスカップなど、すべてのコンペティションが通常どおり開幕されるかわりに、プレシーズンの練習開始の初日から選手、施設で働くスタッフ、ボランティアスタッフ、フロントなど、すべての関係者について、衛生パスポートの所持が絶対条件であるとした。

 もっとも、これはFFFではなく政府の決定で、サッカーだけでなくすべての競技に適用されるものだ。

 現時点では成人のみだが、9月30日からは12歳から17歳までの青少年についても必須となるから、ユースチーム所属の少年プレーヤーたちも、ワクチンを接種するか、2、3日おきに綿棒を鼻に突っ込まなくては、練習にも参加できない。

 FFFのノエル・ル・グラエ会長は、「我われは衛生パスポートが競技者やクラブにとってさらなる制約になることを認識しているが、今回の措置は、選手を可能な限り保護してサッカーを再開させるための最も安全な解決策だと考えられる」とコメント。

 「我われはサッカーやグラウンドから遠ざかるという悲しい体験をした。二度と同じことが起こらないようにしようではないか」

楽しむためには良識が必要

 「サッカーにはワクチンが必要になった」という悲観的な報道があり、義務化することへの反発意見も見られるが、周りの記者たちなどに意見を聞くと、仕事や日常生活での利便性のためにやむを得ない、と、ありのままに受け入れている人が多い。

 その中で『SO FOOT』誌のニコラ・クシス・マルトフ記者が書いていたコラムの一説が興味深かった。意訳するとこうだ。

 「以前は気軽にサッカーを楽しめるのは自分たちの権利だったが、これからはサッカーを楽しむには責任ある行動を取れる大人の良識を事務的に示すことが求められる」

 ワクチンへの考え方が人それぞれなのは世界中どこでも同じだと思う。フランスでも賛否両論だが、賛成派の考えの中心は「ワクチンは自分の健康のためだけでなく、医療従事者の方々の負担を減らす、身体的に弱い人たちを守るなど、社会全体で助け合うことである」という点にあり、「ワクチンを接種したか、していないか」は、その倫理観を炙り出す“踏み絵”のようになりつつある。

 そうした倫理観に加え、実際に手間もかかる。どんなに小さい地元のアマチュアのサッカークラブであっても、「ふらっと行ってボールを蹴ってこようかな」の前にワクチン接種またはPCR検査が必要だ。「週末に近所の少年サッカーチームの試合があるからちょっとお手伝い」の前にも検査……。

 衛生パスを受け入れてサッカーを楽しむか、プレーするのも観戦するのもままならない状態を続けるのか、ここからは選択の時代になるということか。リーグが始動して一見以前と同じように見えるサッカーの景色は、クシス・マルトフ記者が言うように、少し違ったものになっているようだ。


Photo: Getty Images

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Profile

小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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