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リバプールの“フォークヒーロー”、ジェイミー・ウェブスターとは何者か

2020.11.27

 リバプールの“folk hero(民族の英雄)”といえば、マッシュルームカットの4人組(ザ・ビートルズ)や歴代の名選手の姿が思い浮かぶはずだ。しかし、本当の意味で“フォークなヒーロー”は他にいるのかもしれない。

5万人を前に熱唱

 先月、イギリスでフォークソングのアルバムランキング「Official Folk Albums Chart」が新設された。英国内でのアルバム販売数とストリーミング数などを集計したフォークソング部門のチャートで、そのランキングの記念すべき初代1位に輝いたのが、リバプール出身にして今ではリバプールFCの“半公式シンガー”とも呼ばれるジェイミー・ウェブスターだった。

 ウェブスターとは一体何者なのか。英紙『The Guardian』の特集を紹介しよう。26歳のウェブスターは電気技師として働きながら、地元リバプールのパブなどでカバーソングを披露する生活を送っていた。そしてクラブのファンイベントでチャントを歌うなどして、サポーターから認知されるようになった。

 2018年のイベントでは、欧州カップ戦で歌われる『Allez, Allez, Allez(アレ、アレ、アレ)』のチャントを独自にアレンジして披露したところ、その映像が拡散されて一躍有名に。2019年のUEFAチャンピオンズリーグ決勝のイベントでは、5万人の観衆を前に歌ったという。

CL決勝のイベントでは5万人のサポーターを前に熱唱

 そして今年7月、リバプールが悲願のリーグ制覇を果たして30年ぶりにトロフィーを掲げた際、ウェブスターの『This Place(この場所)』という楽曲がイメージソングに選ばれ、その映像が『Sky Sports』でも放送されて国民的な知名度を手にすることになった。地元に誇りを持つことを歌った『This Place』は、多くの人の感動を呼んだという。

『This Place』はリーグ制覇のイメージソングに選ばれ、国民的知名度を獲得

 今年8月にはリバプールの地元紙『Liverpool Echo』が発表した「最も影響力を持つマージーサイドの100名」にも選ばれ、同月に発売されたアルバム『We Get By』が大ヒットを記録。ボブ・ディランに憧れるスカウザー(リバプール出身者)は、アコースティックギターを片手に労働者階級の日常を歌うのだ。

リバプール人の誇りを胸に

 「伝統的なフォークソングとは違う」と指摘されることもあるが、「現代のフォークだ」と本人は説明する。

 「フォークは何世紀も前から親しまれ、何世代にも渡って人生を語り継いできた。僕のアルバムは労働者階級の苦悩、喜び、現実逃避を歌ったもの。それがフォークじゃないのなら何がフォークなんだい? ハーモニカや中折れ帽を持っていなくてもフォークなんだ」

 そして彼はリバプール人である誇りを忘れずに音楽を奏でる。リバプールという町は、ヒルズボロの悲劇での不当捜査にも最後まで屈しなかった。「果敢な抵抗さ」とウェブスターは英紙に説明する。「何かおかしな点があれば、僕らは決して屈しない。もちろん、絶対に受け入れないと主張するのは勇気がいるけどね」

 そんなウェブスターでも、チャートで初代1位に選ばれた時は驚いたという。

 「びっくりした。ローラ・マーリングを抑えての1位だからね。キャリアでは彼女の方が圧倒的に上なんだ。みんな僕の名前を見て『ジェイミー・ウェブスターって誰?』と思ったはずさ」

 彼の『We Get By』は総合アルバムチャートでも6位に入るヒットとなったが、彼の原点はあくまでフットボールにあるようだ。

 「試合を見に行く文化はフォークと似ているんだ」と説明する。「仲間意識、物語、そして歌……。僕も観客の中で歌い方を学んだのさ。僕の友人はみんな音痴だけど、チャントを歌う時は音程が合うんだ!」

温かく、切なく、懐かしい曲

 ファンイベントで歌った『Allez, Allez, Allez』がサポーターに浸透した時、彼はようやく大衆に歌を届ける術を理解したという。

 「あれは僕にとっての『Wonderwall』だったのかもね」と、ウェブスターは恐らく意図的にマンチェスター・シティの最も有名なサポーターの代表作 (編注:『Wonderwall』は元オアシスのノエル・ギャラガーが作詞作曲) を例に出した。

 そして彼はこう歌う。

 「This Place(この場所)は、僕が生まれ育った場所。馴染みの顔や、歌のような訛りがある。打ちのめされそうになっても僕らは決して屈しなかった。この町は僕の救いなんだ。だからどこにいたって、この場所のために乾杯する……」

 ウェブスターの曲は、どこか温かく、どこか切なく、どこか懐かしい。

 彼の曲は、世界的なエンターテインメント産業になってしまったフットボールの本来の喜びを思い出させてくれるような気がする。


Photo: Getty Images

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Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。