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ポーランドで活躍した赤星貴文が今、思い知るタイサッカーの進歩

2018.04.25

“Jリーグではなかなかもらえない額の年俸をもらっています”

Interview with
Takafumi AKAHOSHI
赤星貴文

(スパンブリー/タイ1部)


Jリーグを飛び出し挑戦した東欧の小国ラトビアできっかけをつかみ、ステップアップしたポーランドで確かな評価を得て長らくチームの主力として活躍。ユニークなキャリアを自ら切り拓いてきた赤星貴文は今、タイリーグでプレーしている。

発売中の月刊フットボリスタ第56号で、誰よりもポーランドを知る男としてW杯で日本が対戦する東欧の強豪について語ってもらった31歳はなぜ、東欧とは真逆と言っても過言ではない環境の東南アジアを新たなチャレンジの場に選んだのか。決断の理由、そしてタイリーグの現在を聞いた。


急成長を示す事実

(ACLセレッソ大阪戦では)ブリーラムもメンバーを落としていたんです


――ラトビア、ポーランド、ロシアと約6年半東欧の地でプレーしていましたが、2017年からタイへ活躍の場を移しました。常夏の国へ渡った理由を教えてください。

「(ポーランド時代に所属した)ポゴニ・シュチェチンで同僚だった村山拓哉選手が2016年からタイでプレーしていて、彼からいろんな話を聞いてタイに興味を持ちました。タイのサッカーは凄く良くなってきているし、条件面も良かったので決めました」


――東欧と東南アジアとでは文化から気候まで、まるで勝手が違うと思います。適応に苦労しませんでしたか?

「最初は戸惑うこともありましたけど、慣れました。気温は日本の夏と同じくらいで、ジメジメした夏場が1年中続いているといった感じです。試合は基本ナイトゲームなので、日本の熱帯夜でプレーしていると考えてもらえばイメージしやすいかなと思います。ただその分、練習中はめちゃくちゃ暑くて大変ですが」


――衣食住は快適ですか?

「いいですよ。ご飯はおいしいですし、日本食もたくさんあってスーパーマーケットにも日本の物がいろいろと置いています。僕は辛い物も食べられるので、タイ料理も食べています。日本人にとっていい環境だと思いますね」


――タイ人は優しくて礼儀正しいイメージがあります。

「人たちは本当に優しいですよ。ただ、暑い国なせいかルーズなところがありますけど(苦笑)。綺麗な海があったりしてリラックスできる環境じゃないですか、だからちょっと“緩んじゃう”。練習時間が急に変わったり、用事があるから早く来てって言われたり。だけど、リーグや環境面、クラブの組織はしっかりしていますよ」


――昨年のムアントンに続き今年はブリーラムがグループステージを突破したように、近年タイ勢はACLでも好成績を残しています。環境面がしっかりしているのも納得ですね。

「着実に階段を上っていると思います。リーグのレベルも高くなってきているし、タイ人選手の質も高くなってきている。それに、(国内リーグでプレーしている)外国人選手もクオリティは低くありません。例えば、(3月6日にACLでブリーラムと対戦した)セレッソ大阪が、大幅にメンバーを変えてきました。ターンオーバーももちろんあったでしょうが、同時にこれでも勝てると考えてもいたと思うんです。でも勝ったのはブリーラム(2-0)でした。実はあの試合、ブリーラムもメンバーを落としていたんです。タイのレベルはそんな感じです。今は簡単には勝てませんよ」

ホームでC大阪を破ったブリーラムは、続く敵地でのゲーム(写真)でも2-2のドローで勝ち点を獲得。C大阪を勝ち点1上回り、2013年以来となる決勝トーナメント進出を果たした(Photo: Getty Images)


――タイのサッカーの特徴を教えてください。日本と比較してどうですか?

「技術的な部分は日本と似ているところがあります。今の日本のサッカーのことをちゃんとわかっているわけではありませんが、判断の速さは日本の方が上だと思います。とはいえ、コンサドーレ札幌のチャナティップは誰が見てもいい選手ですし、ヴィッセル神戸のティーラトンやサンフレッチェ広島のティーラシンも出番を得ている。ここまで通用するというのはサプライズだったんじゃないでしょうか。これまで、ベトナムやインドネシアから選手を連れて来てもうまくいきませんでしたから。彼らの活躍が、タイのレベルが上がっていることの証明になっていると思います」


――Jリーグではタイ人選手が増えつつありますが、タイでのJリーグの認知度は高いですか?

「みんな日本好きですし、認知度は高いですよ。それに今はタイ人の選手たちがプレーしているので、より興味を持っていると思います。ロシアW杯のアジア最終予選で戦ったのもあって、日本人選手もけっこう知っています」


――“ルックイースト”という感じで、日本を目標にしている面はあるんでしょうか?

「それはありますね。日本の組織はしっかりしていますし、日本のクラブビジネスを強くリスペクトしていると思います」


――レベルアップに伴う、国内のサッカー熱の高まりを感じますか?

「もちろん、サッカーは人気です。ただ、名門との対戦みたいな注目度の高い試合じゃないと観に来ない、スタジアムが埋まらないところはあります。日本だと一定数固有のサポーターがいるので、しっかりお客さんが入りますからね。そこはちょっと違うかな。(浦和)レッズみたいに常時入るってことはないです。でも、代表の試合はたくさん入りますよ」

スパンブリーのイレブン


――数年前、タイプレミアリーグ(1部)には日本人選手が多くいました。2016年には10人在籍していましたが、現在は3人と少なくなりました。実際にプレーしてみて、理由として思い当たることはありますか?

「間違いなく、タイリーグのレベルとステータスが上がっているからです。ここだけの話、日本人で今、アジア枠でプレーしている僕や青山(直晃/ムアントン所属)くんは、Jリーグではなかなかもらえない額の年俸をもらっています。おそらく、みなさんの想像以上です。年俸に対する税金の支払い方法が違っていて、日本の場合、税金を払うのは僕ら選手個人です。ですから、例えば年俸1億円だとしても半分近くは税金として納めないといけません。一方で、タイの場合は税金を負担するのはクラブです。ですから、手取り額がそのまま自分の懐に入ります。逆に言うと、それだけ支払うわけですから額に見合うクオリティが求められる。昔は日本で出られなくなった選手が行くリーグ、という印象があったかもしれません。ですが実際には、日本人選手がタイでプレーするハードルは以前に比べて格段に上がっているんです」


――タイのサッカーがそこまで発展してきているとは知りませんでした。

「アカデミーやスタジアムインフラの整備も進んでいて、全体的に投資額が上がってきています。まだまだ成長を続けていくのは間違いありません」


――赤星選手は2018年シーズン、ラチャブリーから同じタイ国内のスパンブリーへ移籍しました。理由を聞かせてください。

「スパンブリーが提示してくれた条件面が良くて、環境もしっかりしています。上位に行きたいというクラブの考え方に賛同して移籍を決めました」


――最後に、ファンの方にメッセージをお願いします。

「タイに来てからも日本人の方たちが試合を観に来てくれましまたし、レッズでプレーしていた時のことを覚えてくれている人もいました。応援してもらって、いつも感謝しています。バンコクに来ることがあれば、試合を観に来てもらえたらうれしいです」


■プロフィール
Takafumi AKAHOSHI
赤星貴文
(スパンブリー/タイ1部)
1986.5.27(31歳) 175cm / 66kg MF JAPAN

静岡県出身。小学生の時に地元のスポーツ少年団でサッカーを始める。清水エスパルスジュニアユース、藤枝東高校を経て2005年に浦和レッズに加入。水戸ホーリーホック、モンテディオ山形、ツエーゲン金沢でもプレーした。10年にラトビア1部リエパーヤス・メタルルグスへ移籍し海外挑戦。15試合6ゴールを挙げたプレーぶりが認められ、翌11年にポーランド2部(当時)のポゴニ・シュチェチンに引き抜かれた。ポゴニでは加入直後から主力として活躍。2季目の11-12には1部昇格に貢献し、13-14には35試合7得点9アシストを記録している。14年8月にステップアップを果たしたロシア1部のウファでは負傷や情勢不安の影響もあって満足にプレーできなかったが、半年後に復帰したポゴニで復活。17年、欧州を離れタイ1部ラチャブリーへ移籍。今シーズンから同1部スパンブリーの一員となった。

PLAYING CAREER
2005-07 Urawa Reds
2008 Mito HollyHock*
2009 Urawa Reds
2009 Montedio Yamagata*
2010 Zweigen Kanazawa
2010 Liepājas Metalurgs (LAT)
2011-14 Pogoń Szczecin (POL)
2014-15 FC Ufa (RUS)
2015-16 Pogoń Szczecin (POL)
2017 Ratchaburi (THA)
2018- Suphanburi (THA)
*on loan


Photo Provider: Takafumi Akahoshi

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高橋 アオ

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