
モダンFWは「ニア」を捨てるべき!クロスに対するポジショニングの新常識
【日本人ストライカー改造計画#5】
世界に通用するストライカーを育成するためには、戦術や戦略的なトレンドを知っておくことも必要不可欠だ。ここで紹介するのは、過去から現在に至るまで主要な攻撃方法の1つである「クロス」のスタンダードについて。近年、アタッカーがクロスに合わせる際のポジショニングが変化してきていることに気付いているだろうか。その背景とメカニズムを、東大ア式蹴球部の山口遼監督に解説してもらおう。
クロスからの得点は、現代サッカーにおいても依然として主要な得点パターンだが、その中身はここ10年で大きく変化してきている。というのもこのところ、トップクラスのFWやオーガナイズされた攻撃をするチームが奪うクロスからの得点は、その多くが「ファー」か「マイナス」で生まれているのだ。対照的に、例えば「ニアに飛び込んで伸ばした足の先でボールを逸らして」得点をするような形は、少なくともヨーロッパのトップレベルのサッカーシーンでは見かけなくなってきている。今回は、トップレベルでは当たり前になりつつあるこの「クロスに対するポジショニングの新常識」について考察していこう。
日本のクロス練習はどのようなシチュエーションを想定しているのか?
日本でサッカーをプレーしたことがある人なら、少なくともどこかのカテゴリーで一度は経験したことがあると思うのが、日本で定番の「あの」クロス練習の形だ。SH(サイドハーフ)役の選手がオーバーラップしてきたSB役の選手に弱いスルーパスを出す。その間に中で合わせる2枚のFW役の選手たちは横並びの状態から、交差してニアとファーを入れ替える形でクロスに対して飛び込んでいく。より実践的な形でトレーニングする際には、DF役の選手をFWと同数にして配置して対人要素を盛り込む。
このありふれた「シュート練習」が、どのようなシチュエーションをイメージして作られたのかが、ここ最近のクロスに対するポジショニング傾向の変化を考える上で重要なポイントとなる。このシュート練習をする時、特にDF役の選手をFWにつけて行う時、「DFの選手はFWをしっかりマークしてシュートを撃たせないように」することが求められる。FWに対する「DFのしつこいマークをフェイントや緩急を使って外す」という要求は、この守備のやり方に対する自然な対抗策として発想されるものと言って良いだろう。実際、日本でもゾーンDFが浸透しつつあるとはいえ、いまだペナルティエリア内の対応はマンツーマンで行う指導者が非常に多い。一昔前であればこれはなおさらで、海外でも少し前まではエリア内の守備ではマンツーマンを採用することが主流だった。つまり、ドリル練習に非常に近い「クロスからのシュート練習」が自然と想定する仮想敵の守備のメンタルモデルは、「しつこくマンツーマンで人を潰してくるDF」だったわけだ。……
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Profile
山口 遼
1995年11月23日、茨城県つくば市出身。東京大学工学部化学システム工学科中退。鹿島アントラーズつくばJY、鹿島アントラーズユースを経て、東京大学ア式蹴球部へ。2020年シーズンから同部監督および東京ユナイテッドFCコーチを兼任。2022年シーズンはY.S.C.C.セカンド監督、2023年シーズンからはエリース東京FC監督を務める。twitter: @ryo14afd