「現状維持は堕落」を胸に恩師と目指すJ1の頂。京都サンガF.C.・齊藤未月が語る曺貴裁監督の信念と本質
【特集】愛弟子が語る監督論#3
複数のクラブで同じ監督の下でプレーする選手がいる。俗に「愛弟子」と呼ばれる存在だ。なぜ彼らは、指導者が変わってもその背中を追い続けるのか。そして、なぜ監督は彼らを再び必要とするのか。本特集では、愛弟子だからこそ見えた別角度から、指導者という仕事の本質に迫る。
第3回は、京都サンガF.C.の齊藤未月が登場。初めて言葉を交わしたのは中学3年生のころ。そこから2種登録を経て、湘南ベルマーレでプロサッカー選手になっていく過程において、大きな影響を受けたという曺貴裁監督と、再びサンガで共闘することになった今の想いを、過不足なく語ってもらおう。
中学3年の記憶。初めて曺さんに声を掛けられた日
まず念のため、齊藤未月に尋ねてみた。曺貴裁監督の愛弟子、でよろしいですか、と。
「そうですね。まあ、でも(松田)天馬君の方が(曺監督と共に戦う期間が)長いですからね」
柔らかな表情で前置きをしつつ、「僕が小学生で湘南(ベルマーレジュニア)に入団した時から曺さんはトップチームにいて、僕は曺さんのことを知っていたし、曺さんも多少なりとも知ってくれている関係ではありました。そういう意味では、サッカー人生を共にしている、というのはある。自分の特徴だったり考え方を含め、プロ選手として生きていくためのものをつくってくれたのは曺さんの力かな、と思っています」とうなずいた。
曺監督にとってもサンガの現メンバーの中で、小学生の頃から知っているのは齊藤1人だけ。その歩みを間近で見て、時に寄り添ってきた。「俺も湘南時代から形(システム)は変えたけど、(スタイルの)根本的なことは大きく変えていない。何が大事で、何がいけないかは、彼の礎になっていると思うし、そういったものを携えている選手なのは間違いない」と信頼を寄せた。
2人の出会いは齊藤が小学生の頃にさかのぼるが、初めて声を掛けられた記憶は中学3年の時だったという。
「ユースの練習に参加させてもらったタイミングで、練習終わりに少し声を掛けられました。確か、中3対ユースの高1、高2と紅白戦をしていて、俺も強気なタイプなので、相手が先輩でも言い合いみたいになって。その時に、『負けん気が強いな』みたいなことを言われた印象がありますね」
「ピッチに入れば年齢は関係ない、を体現できる選手だった」(曺監督)
本格的に湘南のトップチームの練習に参加したのは2014年、高校1年の夏だった。その年は湘南が開幕14連勝を飾り、史上最速のJ2優勝・J1昇格を成し遂げたシーズン。現日本代表主将の遠藤航や元日本代表の永木亮太、ウェリントンら錚々たる顔ぶれだった。
そんなメンバーの中に飛び込んだ齊藤は「やっぱり緊張してパスコンで2、3回連続でミスしたんですよ。それで、(曺監督から)『未月、走ってろ』って言われた。だけど、ずっと走らなくてもいいやと思って、半周くらい走って、また列に並んでいた」という。当然、指揮官に見つかって再び走るように命じられたのだが、「でも、俺も『いや、できるんで大丈夫です』と言って。それが印象的でした」と懐かしそうに笑う。
高校2年で2種登録、高校3年でプロ契約を勝ち取り、若くしてトップチームでもまれた齊藤について曺監督は「生意気で、怒ったりしたこともあった」というが、「年上にも全く物おじしていなかった。ピッチに入れば年齢は関係ない、を体現できる選手だった」と振り返る。
齊藤自身も「今でもそうですけど、だいぶ生意気だったんで。100%自分が悪くても、『はあ? 別に俺、悪くないし』みたいなことを、曺さんだったり、他の選手やコーチにも言い返しちゃっていた」と思い返す。「もしかして違う監督だったら、『チームから出て行け』みたいなことも全然あり得ると思う。でも後で常に曺さんから話し掛けてくれて、その日じゃなくても、次の日だったりに、映像を使ったりして分かりやすく(プレーについて)説明してくれるタイミングが絶対にありました。俺はすごく感情が出ちゃうタイプだから、いらついたり、『何だよ』と思うこともあったけど、そういう気持ちを出させてくれたのも曺さんの考えだったんだと思う。それ(強気な性格)すらも良さに変えてくれたのは曺さんかなって思います」。
年齢の分け隔てなく選手に接する、というのが齊藤から見た曺監督の印象だった。10代半ばだった自身に対しても、時に目線を合わせ、コミュニケーションを欠かさなかった。「本当に選手を信頼して言ってくれているのを感じました」。
2種登録の前には、強化部からではなく、指揮官自ら話があったという。
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Profile
逸見 祐介(京都新聞社)
1985年、新潟県生まれ。同志社大学卒。2008年に京都新聞社に入社。事件・事故や教育、紙面レイアウト、司法などの担当を経て2022年から運動部に所属。翌2023年シーズンから京都サンガF.C.担当としてホーム&アウェイの全試合を現地で取材する。朝刊紙面や自社サイトに掲載する月一特集ページ「マンスリーSANGA」などを執筆している。
