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渡邉新太は「このメンバーで戦うのがすごく楽しい」。10ゴール6アシストで水戸を牽引するストライカーの冷静な情熱

2025.08.04

【特集】水戸は一日にして成らず#6

J2第23節終了時点で水戸ホーリーホックが首位に立っている。特に5月以降は10勝1分と勢いが止まらない。小島耕社長と西村卓朗GMによる「ピッチ外の取り組み」は常に高く評価されてきたクラブだったが、「やりきる 走りきる 勝ちきる」をテーマに掲げた森直樹監督の下でついに地道な努力が花開いた。水戸は一日にして成らず――クラブ史上初のJ1昇格が見えてきた今、あらためて躍進の理由を考えてみたい。

第6回は、ここまで10ゴール6アシストとチームを牽引している渡邉新太の声を届けたい。様々な経験を積み重ねてきた29歳(8月5日に30歳)のストライカーは快進撃に浮足立つことなく、冷静な情熱を胸に秘めて1試合1試合を積み重ねていく。

(取材日:7月24日)

10ゴール6アシストの理由

――チームは現在首位に立っています。現状をどのように受け止めていますか?

 「正直なところ、開幕前にこの段階で今の順位にいられるとは思っていませんでした。でも、森直樹監督の守備戦術の整理や攻撃の形、一人ひとりのコンディショニングとか、チームとしての戦いなどすごくマッチしていて、チームとしてやろうとしていることにみんながすごく積極的にトライしている。それがいい方に出ていると感じています」

――渡邉選手自身、現在リーグ得点王の10点を決め、リーグ2位の6アシストという記録を残しています。

 「悪くはない結果だと思っています。ただ、10点を決めていますけど、他にゴールを決められるシーンは何回もありました。そこにもっとこだわりたいので、全然満足してはいないです」

――「渡邉新太」という選手の存在価値を今まで以上に示せているシーズンになっているのでは?

 「結果を出して自分の価値を上げたいという思いを持ってはいますけど、それが最優先ではないです。本当に一つひとつの試合でチームとしてやるべきことをしっかりやって、勝つためにプレーすることを第一に考えてプレーしています。チームの一員としてプレーする意識を強く持っています。その中に『点を取る』という自分のタスクがあると考えていて、それをしっかりやっていれば、おのずと結果はついてくると思っています」

Photo: ©MITO HOLLYHOCK

「契約満了」からの再スタート

――水戸に加入するまでの経緯を振り返ってもらいたいのですが、昨年限りで大分と契約満了となって水戸に移籍することとなりました。プロ人生初の「契約満了」となりましたが、渡邉選手にとって、契約満了を告げられたことはどんな経験でしたか?

 「契約満了になるとは思っていなかったので、すごく悔しい思いはありました。とはいえ、実力で試合に出られずに契約満了になったわけではなかった。だから、自分自身、心が折れるようなことはありませんでした。自分の中でいいきっかけと捉えましたし、また一つ自分を見つめ直すタイミングになったと感じています」

――その中で水戸からのオファーが届き、移籍を決断しました。今まで在籍した新潟や大分と比べて、規模が小さく、実績も乏しいクラブです。どんな思いで水戸への移籍を決めたのでしょうか?

 「もちろん、クラブ規模や実績に関しては今まで在籍したクラブより劣るものはあるかもしれません。でも、オファーをいただいて、話を聞いたところ、西村卓朗GMや小島耕社長など、水戸ホーリーホックはクラブ全体が一つになって『J1に昇格したい』『クラブの価値を高めたい』という思いを強く持っていることが伝わってきました。水戸に加入した後、水戸の歴史の映像を見せてもらったんです。クラブとして、地域密着で一歩一歩成長している歩みにすごく魅力を感じました。このクラブで、一からやっていこうという気持ちになりました。イメージ通り、若手の多いチームですけど、加入してみて感じたのは、想像していた以上に選手のレベルが高かったということ。加えて、監督から言われたことをしっかり体現できる選手が多い。『能力の高い選手が多い』というのがチームに加入しての第一印象でした」

――大分から水戸への移籍は渡邉選手にとって転機となったと思います。渡邉選手にとっても、大分を契約満了となって水戸に移籍するまでの時間は人生を変えるような時間になったのでは?

 「おっしゃる通りです。すべての出来事に意味があると思っています。とにかく、一瞬一瞬全力で取り組んできたからこそ、そう思えるはずですし、大分時代はケガが多かったんですけど、だからといって、サッカーに対して手を抜いたことはなかった。だからこそ、今年水戸でしっかり試合に出ることができていると思っています」

――今年30歳になる節目のシーズンですね。

 「でも、気持ち的にはまだまだですよ。年齢的にはベテランと言われるのかもしれないけど、そんな気持ちはまったくないですし、むしろ、今が頭も体も一番いい状態だと感じています。毎日、フレッシュな気持ちでプレーできています。気持ち的に『若手の見本になる』という考えはありますけど、それとは別に、自分の中では大卒ルーキーと変わらないぐらいのフレッシュな気持ちでサッカーと向き合っています」

――フレッシュな気持ちと経験が融合して、今季のプレーにつながっているのでしょうね。

 「信頼して起用してもらっていることが大きいですね。試合に出続けると、コンディションを作りやすい。だからこそ、期待に応えたい気持ちがすごくある。それがうまくいっているように感じています」

Photo: ©MITO HOLLYHOCK

「キャンプまで対人プレーはしない」意図的なスロー調整の狙い

――大分時代はケガを繰り返しました。コンディション作りにすごく気を配っているように見えます。チーム始動から開幕に向けてのコンディション作りにおいて、チーム内でスロースターターという印象がありました。キャンプで上げきらず、開幕に向けて調整して上げていったように感じましたが。

……

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Profile

佐藤 拓也

1977年生まれ。神奈川県出身茨城県在住のフリーライター。04年から水戸ホーリーホックを取材し続けている。『エル・ゴラッソ』で水戸を担当し、有料webサイト『デイリーホーリーホック』でメインライターを務める。

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