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前半戦の首位ターンは《ミッション・ポッシブル》の証明。鹿島アントラーズ・鬼木達監督がトライするのは“勝ちながら成長する”サイクル

2025.06.19

2025Jリーグ前半戦のサプライズ監督#3
鬼木達監督(鹿島アントラーズ)

2025シーズンのJリーグも折り返し地点を迎えた。前評判通りにいかない激動のシーズンとなっているが、その立役者とも言える「サプライズ監督=ポジティブな驚きを与えてくれた監督」たちをフォーカス。チーム作りの背景にある哲学やマネージメントについて掘り下げてみたい。

第3回は、川崎フロンターレで数々のタイトルを獲得し、今季から古巣・鹿島アントラーズの指揮官に就任した鬼木達監督。J1前半戦を首位で折り返すなど、早くもその手腕を存分に発揮している名将の今を、おなじみの北條聡が多角的にあぶりだす。

“攻守問わず、敵を圧倒する”

 やはり“勝たせる手腕”には特別なものがあるように見える。今季から古巣の鹿島アントラーズを率いる鬼木達監督だ。

 何しろ、J1リーグの前半戦で次々と勝ち点を積み上げ、堂々1位で後半戦へと折り返した。各チームの消化試合数にバラツキがあるため、暫定順位に過ぎないものの、長く遠ざかってきたリーグの覇権奪回に向けて好位置につけているのは確かである。

 タイトル争いに絡めなかった昨季と比べて主力の顔ぶれは大きく変わっていない。しかも、負傷者が続出するアクシデントに見舞われた。そのうえ、チーム自体もまだ発展途上の段階にある。そうした難しい状況にあってもなお、他をしのぐ勝ち点をもたらしたのだから、並みの指揮官とは違うわけだ。

 “攻守問わず、敵を圧倒する”

 それが鬼木の目指すフットボールだ。敵陣にがっちり押し込み、ひたすらボールの保持と奪回を循環させながら、ゴールラッシュを演じる。その見本がコーチとして仕えた風間八宏監督の跡目を継ぎ、その“遺産”を大きく発展させ、空前絶後の最強軍に仕立て上げた川崎フロンターレだろう。

2017年から2024年まで率いた川崎Fに、計7つの主要タイトルをもたらした鬼木監督(Photo: Takahiro Fujii)

鹿島伝統のDNAを受け継ぐ負けず嫌いの指揮官

 もちろん、その領域まで到達するには相応の時間が必要だ。優れた人材を抱える鹿島ですら、その例外ではない。ローマは1日にしてならず――である。しかしながら、鬼木は《成長すれば自ずと結果もついてくる》とは1ミリも考えていない。重要なのは勝ちながら、成長していくこと――そこに鬼木流マネジメントの芯がある。理想と現実のどちらも手放すつもりはない、というわけだ。

 悩める鹿島が復活の担い手として、クラブのOBでもある鬼木に白羽の矢を立てた理由も、そこにあると思う。近年の鹿島はかつてのような常勝軍ではなくなっていた。最後に獲得したタイトルと言えば、2018年シーズンのAFCチャンピオンズリーグ制覇までさかのぼらなければならない。

 国内タイトルに絞れば、2016年シーズンのリーグ優勝が最後だから、もう10年近く前の出来事になる。過去5シーズンのリーグ戦の成績を振り返っても4位が二度、5位が三度。優勝はおろか、トップ3に食い込むことすらかなわなかった。

 他方、鬼木率いる川崎Fが国内タイトルを総なめにしたのは記憶に新しいところ。就任1年目の2017年から実に8シーズンにわたって指揮を執り、無冠に終わったのはわずか2シーズンのみ。タイトルを手にするたびに、鬼木はこう話したものだ。

 「結局、この世界は結果がすべて。勝つからこそ、強いチームなんです」

 まさに黄金時代の鹿島に宿っていた“勝者の精神”だ。ジーコ・スピリットと言い換えてもいい。何はともあれ、勝たねばならぬという姿勢、思想、哲学が鬼木という指導者の太い幹となっている。

……

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Profile

北條 聡

1968年生まれ。栃木県出身。早大政経学部卒。サッカー専門誌編集長を経て、2013年からフリーランスに。YouTubeチャンネル『蹴球メガネーズ』の一員として活動中。

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