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「成長」から「勝ち切る」へ。育成の水戸を戦う集団へと変えた森直樹監督の意識改革

2025.06.17

2025Jリーグ前半戦のサプライズ監督#2
森直樹監督(水戸ホーリーホック)

2025シーズンのJリーグも折り返し地点を迎えた。前評判通りにはいかない激動のシーズンとなっているが、その立役者とも言える「サプライズ監督=ポジティブな驚きを与えてくれた監督」たちをフォーカス。チーム作りの背景にある哲学やマネージメントについて掘り下げてみたい。

第2回は、途中就任した昨季はチームを残留に導き、今季はJ2第19節終了時点で2位の快進撃を見せている水戸ホーリーホックを率いる森直樹監督。水戸に在籍して23年目、トップチームとの関りは15年目というクラブの歴史を知り尽くした指揮官による「意識改革」の中身に迫る。

水戸のトップチームに関わること15年の蓄積

 水戸を躍進に導いているのが、森直樹監督だ。

 昨季、序盤から下位に低迷し、残留争いに巻き込まれる苦しい戦いが続いた中、第13節横浜FC戦後に解任となった濱崎芳己前監督の後任として、監督に就任。その後、チームを立て直して残留に成功し、引き続き指揮を執る今季は上位争いを繰り広げている。

 現役時代、セレッソ大阪から03年に水戸に加入した森監督。3シーズンにわたり、守備の要となるCBとして活躍を見せたのち、現役を引退。その後、指導者の道に進んだ。3年間ユースチームのコーチを務め、09年からはユースチームの監督に就任して、まだ組織と脆弱だったアカデミーの土台を築いた。11年にトップチームのコーチに就き、今年でトップのチーム作りに関わって15年目のシーズンを迎えている。

 昨季まで26シーズンもの間、チームのゴールマウスを守ってきた“水戸のレジェンド”本間幸司とともに水戸ホーリーホックの歴史を作ってきた存在である。柱谷哲二監督、西ヶ谷隆之監督、長谷部茂利監督、秋葉忠宏監督、濱崎芳己監督という5人の監督に従事し、コーチングスタッフ側からチーム作りの機微を見続けてきた。また、西村卓朗GMが強化部長に就任して以降、守備のプレーモデル策定にも携わり、コーチとして主に守備面の構築を担当してきた。

 水戸において重厚な経歴を持つ森監督。本間とともに誰よりも水戸ホーリーホックを理解しており、それこそが、「森直樹」の最大の財産である。

「すべては成長のために」から「やりきる 走りきる 勝ちきる」へ

 就任してまず強調したのが、チーム全体のマインドの変化だった。

 近年、水戸は前田大然や伊藤涼太郎、小川航基ら多くの若手を成長させて、J1や海外に羽ばたかせたことによって「育成の水戸」というブランディングを確立。リーグの中で低予算のチーム作りが行われる中、有望な若手を多く獲得できるようになっていき、チーム力向上を図っていった。

 その一方、経験不足という欠点を露呈し続けてきた。シーズン通して好不調の波が激しく、7位を記録した19年以外、上位に浮上できないシーズンを過ごしてきた。そして、「育成」の言葉が強くなるあまり、「勝負」に対してのこだわりが淡白になってしまっているチームの雰囲気を森監督はコーチとして感じていたという。だからこそ、監督として、その風土を変えることから着手した。

 「選手たちが考えて決めた“水戸スピリッツ”を表現する言葉があるんです。僕が就任するまでは『すべては成長のために』だったんです。監督就任後、GMに対して『すぐに変えてくれ』と頼みました。『勝つために戦うんでしょ』と。『こんなことを言っているから勝てないんだ』という話をしました。監督就任して、最初に行ったのはそれですね。勝つために成長することは大事ですが、『成長』のために戦っているわけではないんですよ。まずは選手のマインドを変えることからスタートしました。それは監督にも言えることで、その言葉があることで、『成長しているからOK』みたいな甘えになってしまうところがあるんです。そういうものをすべて払拭して、戦う集団にしないといけないと思って、言葉を変えました」

……

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佐藤 拓也

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