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わかっていても止められない「大外アタック」の仕組み。様々な派生形に進化する現代サッカーのスタンダード

2025.05.30

知ればさらにサッカーが面白くなる!
新戦術用語のすゝめ
#2

「疑似カウンター」「ジャンプ」「ピン留め」……サッカー中継や分析記事内で登場する戦術用語、実はよくわからないと感じたことはないだろうか? 戦術的概念を言語化したサッカー用語は、試合をより深く味わうことができるツールにもなる。今特集では、最近よく使われるようになった新戦術用語の意味をわかりやすく解説したい。

第2回は、守備者の視野から外れる大外からゴール前に飛び込み、そこにクロスを合わせるという「大外アタック」の解説をらいかーると氏にお願いした。国内外のチームを例に、今や現代のスタンダードとも言えるプレーの背景を掘り下げてもらおう。

出会いはバルセロナの「イニエスタ→アウベス」

 「大外アタック」との出会いは、グアルディオラに率いられたバルセロナであった。

 当時のバルセロナは欧州でも結果を残し、その成果がスペイン代表まで波及する黄金期を迎えていた。彼らを倒すためにスペイン国内外を問わずに様々な策がぶつけられていった。当時は選手だったシャビ・エルナンデスが試合後に守ってばかりの相手へ提言をぶつけ返すことが風物詩として話題になっている。相手のとある戦術を評して、「ゴール前にバスを停めている」と言われたチームもあったくらいであった。

 さすがのバルセロナでもゴール前にバスを停められると、苦戦は必須であった。当時のバルセロナはメッシが中央にポジションを移した関係もあって、ウイングに質的優位を求める状況でもなかった。当時のウイングの役割は、メッシが中盤に降りるスペースメイクを利用してゴール前に飛び出すことが求められていた。ウイングというよりも、FWと表現した方が正しいだろう。

 メッシを活かした中央突破は猛威を振るったが、停められたバスを何度も突破できるかというと、他の作戦も欲しくなる。そんな流れで生まれたのが「大外アタック」だった。

 当時のバルセロナでは左ハーフスペースから仕掛けるイニエスタとタイミング良く右の大外から飛び出してくるダニエウ・アウベスの関係性でチャンスを量産していった。ワンツーを繰り返し相手の守備ブロックの内側に強引に侵入していく中央突破と、相手の守備ブロックの外から侵入する「大外アタック」によって、攻撃の幅を手に入れたバルセロナの栄華はもう少しだけ続くこととなった。

 メッシがいなければ、バルセロナが実行していた中央突破を参考にすることは難しいかもしれない。再現ができたとしても、最後のクオリティの部分が足りなければ、内容は良くても結果がついてこないジレンマに苛まれるだろう。一方で「大外アタック」はコピーが可能な戦術として、トレンドからスタンダードへと徐々に変貌していった。

D.アウベスのバルセロナ在籍時(2008-16)のゴール集。大外アタックの登場は7:20から

クロスを上げる場所は「大外レーン」「ペナ角」「ハーフスペース」の3つ

 「大外アタック」の発展について整理したところで、そもそもこの用語の定義は何なのかについて言及していきたい。

 大前提として、「大外アタック」はクロス戦術の一種である。ファーサイドへのクロスに対して、相手の守備ブロックの外から攻撃することを意味している。クロスに合わせる選手は、相手のブロックの外を出発点としながら、飛んでくるクロスに対してブロックの内側に入って合わせたり、ブロックの外からシュート、もしくは中央に折り返したりすることを目指している。

 特徴として、相手の最終ラインの裏に走り込む動きを必要とすることが多い。クロスを上げる側の起点は、大外レーン、ペナルティエリアの角、ハーフスペースの3つに大別することができる。

 イニエスタとアウベスが世界に広めた「大外アタック」は、左ハーフスペースを起点とし、右サイドの大外から攻撃する形であった。この形は現代サッカーの鉄板芸になりつつあり、ハーフスペースでオープンな形でボールを持った時に逆サイドのハーフスペースから飛び出すことをチームの約束事にしているチームも多いのではないだろうか。

……

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Profile

らいかーると

昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』 (小学館)。

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