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ファジアーノ岡山の根底にある理念。「全員営業」「出会った人をファンにする」「敵を作らず」【森井悠代表取締役社長インタビュー前編】

2025.02.14

ファジアーノ岡山、市民クラブがJ1に見る夢#2

2025シーズン、クラブ創設以降初めてJ1を舞台に戦うファジアーノ岡山。1つの大きな夢を叶えた市民クラブは、その先に何を見るのか? 森井悠社長は「岡山のスポーツ業界の中では確かな成長を遂げつつある。(売上)100億円をいろんな形で目指すこと自体は不可能ではない」と壮大な青写真を描いている。悲願の実現に至る過程、そしてその未来にある景色に思いを巡らせてみたい。

第2回&第3回では前後編に分けて、その森井社長にインタビュー。前編では事業規模を拡大させていく過程とその根底にある理念を振り返ってもらった。

Photo: ⒸFAGIANO OKAYAMA

木村オーナー、北川前社長から継承されてきた「岡山イズム」

――私は地方市民クラブの栃木SCを取材して20年ほどになるのですが、ファジアーノ岡山と栃木SC、カターレ富山は2009年にJ2昇格を果たした同期になります。同期という思いは持っていたのですが、当時からファジアーノ岡山は優等生であって、着々と事業規模を大きくしていく姿を遠目から拝見していて、どこか羨ましい思いも持っておりました。

 当時、J2に昇格してすぐに木村正明オーナー(当時はファジアーノ岡山代表取締役)に『サッカー批評』という雑誌でロングインタビューをさせていただいたことがあるのですが、そこで事業規模を拡大させていく手法について伺ったことがありました。あれから時が流れて、その手法に基づき、まさに着々と事業規模を大きくされて、今回、J1昇格という大輪の花を開かせたことは、この競争時代において、地方市民クラブが成し遂げた大きな快挙だと感じます。

 さて、森井悠社長は2010年にファジアーノ岡山に入社されていますが、当時の木村代表を中心としたクラブが事業規模を拡大させていく過程を中の人として体感してこられたと思います。そのあたりは激しい競争にさらされる地方市民クラブの関係者の皆さんもぜひ参考にさせていただきたいとの思いはあるはずです。森井社長が当時、感じられていたことからインタビューを始めさせてください。

 「よろしくお願いします。私はファジアーノ岡山に2010年に入社したので、2024シーズンは15年目のシーズンに当たります。2010年当時の事業規模で申し上げると約300社の協賛で、スポンサー収入が2億6300万ほどでした。それが2024年で9億を少し超えるほどの着地を見込んでいます。私が入社した当時は、私を含めて5人の法人営業メンバーがおりまして、『毎年1人1000万ずつ売り上げを伸ばしていこう』という目標があり、目標を達成する年もあれば、達成できない年もあるという状況でやっていました。そういう中で当時、木村オーナーがよく言っていたのは『全員営業』という言葉でした」

――全員営業。

 「『法人営業だけが営業担当ではない』と、事あるごとに社内で言っていたのをよく覚えています。これは『全社員が出会った人をファンにする』ことを目指すということで、いわゆる協賛がもらえる・もらえないではなく、『すべての人をファンにして、ファジアーノを好意的に思ってくれて、あわよくばその思いを行動に移してくれるような、そんな仲間の輪を増やすことを目指してやろう』ということを、木村さんがすごく大切にしていたと認識しています。例えば2015年に『CHALLENGE1』というテーマでコピーを掲げ、J1に相応しいクラブになるために観客動員は1万人を目指しましょう、とする中で、ファン・サポーターの皆さんも一緒になって集客することを目指していたんです」

――ファン・サポーターが一緒になってやると。

 「そういう取り組みを地道にやってきたことがまず根底にあると思っています。当時、よく木村オーナーが発信していた言葉をおさらいすれば、先ほどの『全員営業』という言葉があり、あるいは『敵を作らず』ということもよくおっしゃっていました。しっかりとルールや制度を作り、基本的にその中で特別扱いをせず、あくまで公正に対応できるように進めましょう、ということをずっと発信してきたという感覚はあります」

――『敵を作らず』というのは内外に、ということですか?

 「そうです。岡山の地域の中で嫌な思いをさせない、嫌われない、という考え方ですね」

――確かに、かつて当時の木村代表にインタビューをさせていただいた時、現場のリアルな話として伺いましたが、地域の財界、町内会、婦人会等々に対して『挨拶に行く順番を間違えない』などと言われていたんです。そこまで慎重に進めるんだなとインタビューをしながら思ったことでした。

 「私が木村オーナーが思い描いていたことを真の意味で身につけられているかわかりませんが、木村オーナーを中心に、そういうことに気をつけながら物事を進めていこうとよく話し合っていました。その後、木村オーナーが2017年に専務理事としてJリーグに行くことになり、その後、北川(真也/前代表取締役社長、現代表取締役会長)が後継となり、新たな体制が始まるわけですが、北川になってからも木村さんの考えは継承しながらも、一方で、北川スタイルのような進め方もあったと思っています。それはダイナミックに予算組みをするとか、あるいは僕らの規模と成長スピードではJ1に昇格できる期限はそう遠くないだろうと認識しながら、いざ勝負をする時を踏まえて、しっかりと予算を投じられる状態を作り、実際に投じたことが今回の結果に至った経緯だと思っています」

木村オーナー

ファン・サポーターを巻き込んで目標を目指すカルチャー

――少し話が戻りますが、当時の木村代表が観客動員で1万人を超えることが「クラブの熱量のバロメーターだ」という話をされていたのを覚えています。J1未経験の地方クラブが観客動員で平均1万人を超えることは相当高いハードルだと思いますが、ファジアーノ岡山は実際にそれを2016年シーズンに超えました。それをやり切るために、例えば、ホーム戦の前にはチラシを2万枚、3万枚を配り切るとか、そのような徹底した取り組みがあったと聞いています。当時から集客の取り組みについてどう感じてこられましたか?……

Profile

鈴木 康浩

1978年、栃木県生まれ。ライター・編集者。サッカー書籍の構成・編集は30作以上。松田浩氏との共著に『サッカー守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論』がある。普段は『EL GOLAZO』やWEBマガジン『栃木フットボールマガジン』で栃木SCの日々の記録に明け暮れる。YouTubeのJ論ライブ『J2バスターズ』にも出演中。