
下馬評は覆すためにある。20番目からのスタートを切るファジアーノ岡山が貫くのはJ1への挑戦権を勝ち取ったアグレッシブなスタイル
【特集】ファジアーノ岡山、 市民クラブがJ1に見る夢#1
2025シーズン、クラブ創設以降初めてJ1を舞台に戦うファジアーノ岡山。1つの大きな夢を叶えた市民クラブは、その先に何を見るのか? 森井悠社長は「岡山のスポーツ業界の中では確かな成長を遂げつつある。(売上)100億円をいろんな形で目指すこと自体は不可能ではない」と壮大な青写真を描いている。悲願の実現に至る過程、そしてその未来にある景色に思いを巡らせてみたい。
今特集のスタートは、やはり新シーズンの展望からということになる。岡山で生まれ、岡山で育った若きサッカーライター・難波拓未が、宮崎キャンプ取材を通して見えてきた「2025年のファジアーノ」の輪郭を、丁寧に描く。
ファジアーノ岡山は受動的な戦いをするつもりは毛頭ない
ファジアーノ岡山は、クラブ初挑戦となるJ1であっても全く引く気はない。むしろ、自分たちのスタイルが国内最高峰の舞台でどれだけ通用するのか、と胸を高鳴らせている。
下馬評は決して高くないだろう。J2の5位で進出したJ1昇格プレーオフを勝ち上がってからの初参戦だ。20番目からのスタートという見られ方は仕方がない。就任4年目を迎える木山隆之監督も現状の立ち位置について、「基本的に自分たちは1番下からのスタートになることは変わらないと思う」と言及している。
J1のレベルは、16年間戦ってきたJ2よりも桁違いなのだろう。木山監督が両リーグの違いに「両ゴール前でのクオリティ」を挙げているように、個人の力で試合を決定づけることのできる選手がたくさんいる。J2では決まっていたシュートを防がれ、J2では防げていたシュートを決められることが起きるかもしれない。
サッカーは失点しなければ負けることはない。簡単に失点しないことを優先し、自陣ゴール前に人を多く配置して、守備を固める。相手の隙という勝機が訪れるまで、粘り強く耐えしのぐ。それはトップリーグで生き残っていくための1つの手段だろう。
しかし、ファジアーノ岡山は受動的な戦いをするつもりは毛頭ない。
木山監督との3年間で積み上げてきたスタイルを貫き、能動的に勝利だけを目指していく。

3年間貫いてきた合言葉は「相手コートでサッカーをする」
今から3年前、木山監督がチームを率いたその時からずっと言い続けてきた言葉がある。
「相手コートでサッカーをする」
自分たちがボールを持っている時は、素早くゴールに向かっていく。自分たちがボールを持っていない時は、全体の陣形をコンパクトにした状態で前線から激しいプレスを掛けていく。90分の中で相手コートにボールがある状態を長く作り、ハーフウェーラインの向こう側で攻守を展開する「アグレッシブなサッカー」だ。
毎シーズン先発する選手が半数近く入れ代わりながらも、そのスタイルは洗練されていった。
昨シーズンの基本布陣は[3-4-3]。3バックの中央から田上大地がディフェンスラインを押し上げ、全体をコンパクトにする。3トップの一美和成(開幕時はグレイソン)、岩渕弘人、木村太哉が二度追いや三度追いを辞さない激しいプレスを仕掛ける。パスコースを見切ったボランチが中央で、WBがサイドでボールを奪う。もしくは、苦し紛れに蹴らせたロングボールに3バックが競り勝ち、セカンドボールを回収する。
また、トランジションへの反応も研ぎ澄ませた。特にネガティブトランジション時は「5秒ルール」を設定。ボールを失ってから5秒以内に奪い返すことを目標にし、ボールに近い選手が猛烈なカウンタープレスをおこなう。その周囲の選手も加勢し、素早く囲い込んで再びマイボールにして、縦に早く攻める。
このサイクルを自ら回すことで、対戦チームのリズムやスタイルを駆逐。相手コートでプレーする時間を増加させて試合を支配し、J2を突破した。
「強みを出していければ、自分たちが思うよりもやれることが多い」(木山監督)
木山体制4年目の今シーズンは、アグレッシブなスタイルをさらに磨き上げてJ1に挑む。……

Profile
難波 拓未
2000年4月14日生まれ。岡山県岡山市出身。8歳の時に当時JFLのファジアーノ岡山に憧れて応援するようになり、高校3年生からサッカーメディアの仕事を志すなか、大学在学中の2022年にファジアーノ岡山の取材と撮影を開始。2024年からは同クラブのマッチデープログラムを担当し、サッカーのこだわりを1mm単位で掘り下げるメディア「イチミリ」の運営と編集を務める。(株)ウニベルサーレ所属。