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ポジショナルプレー3.0のヒントがここにある。「清澤式ロンド」とは何か?

2025.01.23

ポジショナルプレー3.0の胎動#5

ポジショナルプレー1.0をペップ・バイエルン時代の偽SB+5レーンの攻撃配置とすると、2.0はそれに対抗する5バックで横幅を埋める「ポケット封鎖」の守備配置であり、現在そこからさらに「ゾーンの間」を消滅させるマンツーマンプレスへと発展している。守備の進化の先にある3.0の胎動を読み解く。

第5回は、「ポジショナルプレー3.0のヒントになるかもしれない」(西部謙司氏)という「清澤式ロンド」の提唱者である清澤光伸氏に話を聞いた。「トリカゴ理論」に侵されているという現代サッカーの問題点、そして「ロンド」はそれをどう変え得るのかを掘り下げてもらおう。

「清澤式ロンド」の源流はブラジルサッカー

 バイエルンの練習場に4本の縦線が追加されていた。この航空写真がポジショナルプレー時代の幕開けと言われている。

 5レーンを糸口にペップ・グアルディオラ監督下のポゼッションフットボールの謎が一気に解明され、やがて世界中に流布されるに至る。およその構造が理解されれば対処方も発展するわけで、ポジショナルプレーにおける攻撃効果はなくなりつつあるのが現状だ。

 現在をポジショナルプレー2.0とすると、次にはどんな変化が起きるのだろうか。ポジショナルプレー3.0はどうなるのか。

 このテーマを考えるにあたって、1人の指導者が思い浮かんだ。「清澤式ロンド」の提唱者である清澤光伸氏である。

 清澤氏は「ロンド」の研究におよそ20年間を費やしたそうだ。現在はそのメソッドが完成したので指導と普及に忙しい日々を送っている。彼の経歴をざっくりと紹介すると、ブラジルに渡っていくつかのプロチームでプレーした後、帰国してエドゥ、ジーコのコインブラ兄弟を補佐する仕事に就き、三重県に「CFEエドゥ・サッカーセンター」の設立にともない、監督代行から選手、通訳と多岐にわたる仕事をこなす。その時に体感した「ロンド」を日本人に伝えるための指導法を研究してきた。

奥でジーコ、エドゥと並ぶ清澤氏(写真:本人提供)

 清澤氏の提唱する「ロンド」はいわゆる「鬼回し」ではない。戦い方であり、最もわかりやすい例としては、かつてペップ・グアルディオラが率いた頃のバルセロナが挙げられる。当時、清澤氏は「先にやられた」と思ったそうだ。

 筆者がなぜポジショナルプレー3.0で「ロンド」を想起したのかというと、現在のポジショナルプレーとは戦い方の発想が違うからだ。いわばポジショナルプレーの元祖であるかつてのバルセロナが、現状の打開策になるのかという疑問は当然あると思う。ただ、あのバルセロナは現在のポジショナルプレーとは別物という点で筆者と清澤氏は一致していて、いわば温故知新の打開策になりうるのではないかということなのだ。

写真:本人提供

「トリカゴ理論」に侵された現代サッカーの病

――現在、ポジショナルプレーがかつての効力を失っています。その原因は何だと思いますか?

 「原因は現代サッカーのプレーの仕方そのものにあると思います。現代サッカーの理論を私は『トリカゴ理論』と呼んでいるのですが、これを続ける限り守備と攻撃のどちらが上回るかという競争において、守備側が勝つのは自明だからです」

――トリカゴ理論とは何ですか?

 「トリカゴとは、守備が鳥です。鳥を囲んでボールを速く動かそうとする攻撃をしていているのですが、囲んでいる檻のことしか考えていないからトリカゴです。例えば、どこでもやっている4対2のパス回しのトレーニングがありますよね。あれが象徴的ですけど、攻撃側の4人はグリッドの辺に沿ってしか動きません。実際のゲームでも、守備ブロックに対して大きなトリカゴを作ってボールを速く動かしていくのですが、最終的にはサイドからのクロスボールということになります」

――その攻撃方法で守備側が有利になるのはなぜですか?

 「ジャンケンで言うと、攻撃の発想がすべて『先だし』だからです」

――ジャンケンで先に出しちゃったら負けますよね(笑)。

 「守備の発想も先だしです。いわゆる前プレがそうです。マンツーマンも復活していますよね。その先だしの守備に対して、攻撃側は様子見ができない。攻撃の発想も先だしなので守備に呑まれていくんです」

写真:本人提供

――ブロックの外で速くボールを動かして、守備側の態勢が整いきる前にラストパスを狙っていくわけですが、双方速度を上げていく中で攻撃側の精度が失われていく場面はよく見ますね。ゴールが決まった時だけは実に鮮やかではありますが。……

Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。