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「ビルドアップ時に[3-2-5]構造を優先する限り、一部の選手には無理を強いることになる」ガリアルディと考えるポジショナルプレーの未来(中編)

2025.01.18

ポジショナルプレー3.0の胎動#2

ポジショナルプレー1.0をペップ・バイエルン時代の偽SB+5レーンの攻撃配置とすると、2.0はそれに対抗する5バックで横幅を埋める「ポケット封鎖」の守備配置であり、現在そこからさらに「ゾーンの間」を消滅させるマンツーマンプレスへと発展している。守備の進化の先にある3.0の胎動を読み解く。

第1~3回は議論の土台として、アントニオ・ガリアルディの論考を取り上げたい。イタリア代表のテクニカルスタッフを長く務め、2021年夏のEURO2020制覇にも貢献した彼は、その後ユベントスなどでアンドレア・ピルロの戦術コーチ、そしてつい先日まではロベルト・マンチーニのスタッフとしてサウジアラビア代表で仕事をしていた。現在はUEFA PROライセンスを持つ監督として独立し、その第一歩を踏み出そうとしている。

サッカー戦術の歴史、その進歩の過程について造詣が深く、『ウルティモ・ウオモ』にも「ポジショナルプレーの時代は終わったのか?」という、そのタイトルがすべてを物語る記事を寄稿。その続編として『ウルティモ・ウオモ』に掲載されたポジショナルプレーの未来を予見したダリオ・ペルゴリッツィとの興味深い対話を、前・中・後編に分けて転載したい。

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「リレーショナル」が求められる2つの必然

――実際今では、多くのチームが[4-2-4]や[4-4-2]のミドルブロックで守るようになってきていますよね。そして一部のチームに対しては、マンツーマン一辺倒ではなく、ゾーンも交えたハイブリッドなやり方で守るのがより一般的になってきました。これはあなたが指摘したように、サッカー全体がフィードバックループ、つまり相互作用的な循環の中にあるからです。こちらが相手の守備のやり方に基づいて攻め方を決めれば、相手もそれに応じて守備のやり方を変えてくる。そうやって互いに影響を与え合う形で変化するのは必然であり、同じ場所に留まっていることは不可能です。

 まだ揺籃期(ようらんき)にあるとはいえ、リレーショナルサッカーという概念とそれを巡る議論が『成功』を収めていると感じる理由は、主に2つあります。1つ目は、ポゼッションの展開の仕方について、予見不可能性を高める方向で新たな回答を示してくれるからです。これは長い目で見れば、よりクリエイティブな選手の育成にインセンティブを与え、その推進力になる可能性も持っています。というのも、選手により自由な選択の可能性を与えるので、特に育成年代において創造的なタレントの発揮を促進するからです。

 2つ目は現代の守備戦術、それも今ますます増えているマンツーマンだけでなく、ポジショナルプレーへのもう1つの対策として生まれつつある、非常に重心の低いローブロック守備の攻略についても、1つの回答を与えてくれるからです。極端なローブロックに対しては、局地的なオーバーロード(人数集中)によって、一見不利に見えるような状況でもフリーマンを探さず強引に突破を試みる方が、使いたいスペースにフリーマンを作り出すまで、延々と横方向にボールを動かし続けるよりも、ずっと効果的であることが多いですからね。

 今日、ポジショナルサッカーがもたらした守備のアプローチ、つまりマンツーマンのハイプレス、そしてその反対側にある極端なローブロックが主流になった結果、試合はしばしば停滞するようになってきています。ポジショナルプレーを採用する中で最も優れたチームですら、たくさんのゴールを決めることが少なくなってきている。おそらくそれは、ボールを動かし続けることでスペースを作り出そうとするからでしょう。しかし相手のローブロックは中央にスペースを与えるつもりは一切なく、また攻撃側も強引にこじ開けに行くことを良しとしないので、ボールはその周辺をサイドからサイドへと往復するばかりで埒が明かないままになってしまう。

 それに加えてもう1つ、あなたに質問したいことがあります。それはトレーニングメソッドに関わるものです。監督としてのアプローチを変え、ポジショナルな基準を脇に置いて、より関係性を重視した考え方でチームを指導し始めると、トレーニングの前提条件が根本的なところから変わってきますよね。この新しい思考の枠組みの中では、選手はもちろん監督も(少なくとも私の場合はそうだったんですが)よりクリエイティブで自由な発想が生まれやすいという実感があります。例えばトレーニングの設計や選手の創発的なプレーの解釈において、以前なら自分の『モデル』に疑問を投げかけるものとして煩わしく感じていた事象を、今では変化のチャンス、新しい基準点を見出す機会として捉えることができるようになった。一見するとこのアプローチは選手に多くを委ね過ぎているように見えるかもしれませんが、実際には監督の役割が非常に重要です。こうした観点から見た時、監督の役割をどう捉えるべきだと思いますか?

「監督」の前提が変わるパラダイムシフト

 「今の話には全面的に同意します。トップチームでも育成年代でも選手の創造性を刺激することもそうですし、ローブロックに対して強引に突破を仕掛ける方が効果的だということも。もう1つ重要な指摘は、創発的なプレーや選手の特性に対する注目です。例えば、私はコベルチャーノで『ポジションの進化』についてのプレゼンテーションを行いましたよね。1970年代から80年代にかけては、スペシャリストの時代でした。選手はそれぞれ『フルイディフィカンテ(流動的なサイドバック)』や『テルツィーノ・マルカトーレ(ストッパ-的に振る舞うサイドバック)』といった、決まった役割をこなすだけだった。

 90年代から2000年代になると、今度は選手がチェスの駒みたいに扱われるようになりました。例えば[4-4-2]のシステムに選手を当てはめるために、選手が持っている特徴を歪めたり、場合によっては『10番』のように特定のタイプの選手を排除してしまったり。単にシステムにうまくはまらない、というのが理由です。さらに時代が進むと、[3-5-2]の中であるタイプのインサイドハーフが、前線への攻め上がりが不得手だという理由で起用されない状況も生まれた。『あいつはポゼッション型のインサイドハーフで、(フランク・)ランパードのようなタイプではない』という具合です。やはり選手は駒として見られていた。

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Profile

ウルティモ ウオモ

ダニエレ・マヌシアとティモシー・スモールの2人が共同で創設したイタリア発のまったく新しいWEBマガジン。長文の分析・考察が中心で、テクニカルで専門的な世界と文学的にスポーツを語る世界を一つに統合することを目指す。従来のジャーナリズムにはなかった専門性の高い記事で新たなファン層を開拓し、イタリア国内で高い評価を得ている。媒体名のウルティモ・ウオモは「最後の1人=オフサイドラインの基準となるDF」を意味する。