FEATURE

「2手先3手先まで考えておく」「J1とJ2は時間の流れ方が違う」徳島ヴォルティス・岩尾憲に聞くプレーメイカーの思考と未来

2024.10.03

プレーメイカーは絶滅するのか?#6

インテンシティの重視、ビルドアップの機能分散が加速する現代サッカーに、果たしてプレーメイカーの居場所は存在し続けるのか?トニ・クロース、チアゴ・アルカンタラという時代を彩った名手が相次いで現役を引退した今、考える司令塔たちの未来。

第5、6回は前後編に分けて、今夏に浦和レッズから徳島ヴォルティスに復帰した岩尾憲のインタビューをお届け。後編では「2手先3手先まで考えておく」という、Jリーグが誇る司令塔の頭の中を教えてもらった。

←前編へ

エンタメが求められる時代でも…一か八かは「僕は選ばない」

——オフ・ザ・ボールのお話だけでも岩尾選手がどれだけ深く考えているのかが伝わってきましたが、オン・ザ・ボールも含めてプレーメイカーとして一番意識していることは何ですか。

 「難しいですね……。その状況にもよりますし、相手にもよりますし、一つではないですよね。でも結局は、勝つためにプレーを選択しなければならない。そこで『ゴール方向に行くことを意識します』と言う人もいますが、必ずしもゴールを意識しないのが僕の考え方なので。ゴール方向を意識するのはもちろん、ゴールを取るためですけど、相手もゴールを取られたくないから真ん中や縦ばっかりを意識していても開かないじゃないですか。なので、まずは左右や上下に揺さぶるためにパスを散らしたりする。そうやってプレーのディティールのところでこれを意識しますというよりは、勝つために必要なことを逆算して駆け引きもしながら一瞬一瞬、判断と決断を繰り返しているというイメージの方が強いです」

——2手先、3手先まで見据えているということですよね。

 「同じ中盤でもアスリート能力で剥がせちゃう、ターンして体をぶつけながら相手をなぎ倒して剥がして突っ込んでいける選手は1手先まで見えていればいいと思います。でも僕はそうじゃないしできないので、違う方法論として2手先3手先まで考えておくというタイプなだけですね。だから2タッチ以下とかになる。

 でも、今はSNSもある時代でみんな見映えのいい前者を見たいんじゃないですかね。『ボールを下げんな』とか、『世界がそうしてるからこれじゃ駄目だ』みたいな意見も出てくるのかなと。一種のバイアスというか、結局はエンタメなのでそこを求められるとやっぱり必要になるし。それは感じますが、僕はできないとわかっているので」

——サッカーは攻守が一体で、例えば1本のパスで裏が取れそうでも、ボールを奪われてそのままカウンターを浴びそうな状況ならあえて出さないというようなバランスも考えなければいけませんからね。

 「僕もする時はしますけど、あまり一か八かはしたくないですね。例えば、5分くらいずっと攻め立てられていて、やっとマイボールになったけどみんな守備で疲弊している。でも、めちゃくちゃ元気なFWが前線に1人いて、そいつがめっちゃ裏で要求しているとします。通ればシュートまで行けるかもしれないけど、相手は後ろに4枚くらい残っていて……みたいな時には選びません。それでまた走らされるみんなのことを思ってしまう(笑)。ここでミスした時にまた守備を延々とするのか、それが90分の中で何度もあったらきついじゃないですか。そういう意味での何手か先、その後のことも考えてしまう性格ではあります」

Photo: ©T.VORTIS

——そういうリスクマネージメントができない選手は、プレーメイカーには向いていないのでしょうか。

 「僕が向いていると仮定するなら、向いてないんじゃないんですか。それも見る人によると思いますけど、僕は選ばない。選ばないからつまんないと言う人もいると思いますけど、何が正解で間違いかがないのがサッカーの醍醐味ですからね」

コミュニケーションだけではない「司令塔」としての役割

——プレーメイカーは「司令塔」とも呼ばれるように、指示で周りを動かすイメージもあります。岩尾選手も得意としていますよね。

 「割と昔から、声は出していくタイプではありました。でもそれが具体的にどんな声なのか、どんな指示なのかという精度と強度みたいなものは、年を取っている今の方が変わってきたというか、ブラッシュアップはできているなという感覚です。

 めちゃくちゃわかりやすいところで言うと、プレスとかじゃないですか。チームプランとして、相手に対してこうプレッシングしようという時に、そこで整理がはっきりついている選手もいれば、曖昧な選手もいます。仮に全員がはっきりわかっていたとしても、相手の立ち位置が前節と若干変わっていれば、それだけで微調整が必要になります。そこで指示を出して、誰が行くのかを早い段階で明確化させるようなコミュニケーションの質はすごく重要だと思います。その1mや50cmを相手に寄せられるか寄せられないかで局面が変わるのがサッカーですから。もちろん、11人全員に対して声をかけるのはなかなか難しいですけど、少なくとも自分のエリアに関わる2、3人に関しては、早く的確に伝えることで相手の自由を奪うことに繋がります。

 攻撃も同様で、裏を返せば、ビルドアップの時に相手のプレスが何枚きていて、どうはめたいと思っているかを早く察知してコミュニケーションとって、『ここは俺が1回入ってみるわ』みたいな、相手の矛先をずらすコミュニケーションもあります。僕がパッと顔を上げた瞬間に明確なアクションをしてくれる選手と、目が合うまで立っている選手だと全然違うので、そういう時は、『裏に出ろ』みたいなジェスチャーをする時もあります。攻守両方とも、コミュニケーションやアドバイスによるアドバンテージは得られると思っています」

Photo: ©T.VORTIS

——パスも一つのコミュニケーションツールになりますよね。チームメイトに裏に走ってほしい例だと、通らなくてもいいから一度大きくボールを蹴ってみるとか。……

Profile

ジェイ

1980年生まれ、山口県出身。2019年10月よりアイキャンフライしてフリーランスという名の無職となるが、気が付けばサッカー新聞『エル・ゴラッソ』浦和担当に。footballistaには2018年6月より不定期寄稿。心のクラブはレノファ山口、リーズ・ユナイテッド、アイルランド代表。