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マルディーニの辞任は「思い上がり」なのか?イタリアサッカーが失った再建への「10年計画」

2026.08.14

CALCIOおもてうら#73

イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。 

今回は、前回に引き続きイタリアサッカーの構造改革を掘り下げる。マルディーニは本当に「思い上がった理想論者」だったのか。それとも、彼が構想した改革案には大きな価値があったのか。FIGCテクニカルダイレクター就任からわずか2週間で辞任したレジェンドは、退任後のインタビューで自らが構想していた「再建計画」を明かした。代表監督人事の混乱の裏で失われたものとは何だったのか。イタリアサッカーが見送った未来を読み解く。

「代表再建」ではなく「イタリアサッカー再建」

 8月8日付のイタリア全国紙『コリエーレ・デッラ・セーラ』に掲載された、パオロ・マルディーニのインタビューは、とても興味深い内容だった。

 6月にイタリアサッカー連盟(FIGC)会長に就任したジョバンニ・マラゴーの指名で、FIGCテクニカルダイレクター(TD)兼クラブ・イタリア会長に就任が決まりながら、代表監督に推したアンドレア・ピルロの承認をマラゴーが拒否したことを受け、7月末にわずか2週間で自らその座を去った経緯は、前回の当連載コラム『「砂時計」は結局ひっくり返らなかった。マンチーニ復帰までのドタバタ劇が暴くFIGC改革の現実』で詳しく取り上げた通り。このインタビューでは、その件に関する彼の立場からの「真実」が率直に語られている。それを読むと、マルディーニとともにイタリア代表とイタリアサッカーが何を失ったのか、どんな機会を逃したのかが、はっきりと浮かび上がってくる。

 マルディーニは、TD就任の経緯について、次のように語っている。

 「(FIGC会長選挙に勝ったマラゴーに)クラブ・イタリアの会長になってほしいと言われた。単に代表を立て直すだけの話ではなかった。イタリアサッカーを再建しなければならなかった」

 「(片腕のレオナルドと一緒に)TDという、これまで代表の組織図にはなかった役職を考えた。監督はこれまで、FIGCの会長に直接つながっていた。でもそれは正しくない。監督には意見をかわす相手が必要だ」

 「最初に訊いたのは、代表監督は誰が選ぶのか、だった。マラゴーは『君たちが決め、私が承認する』と答えた。それが合意だった」

 ここからわかるのは、当初マラゴーはイタリア代表を統括するクラブ・イタリアのトップにマルディーニを招聘したこと、マルディーニの側がそれを受けてTDという統括ポストを提案し、同時に総合的なプロジェクトを構想したこと、そしてマラゴーもそれを受け入れたことだ。

 そのプロジェクトについての説明はこうだ。

 「テクニカルな観点から見て、イタリアはもはやタレントを生み出せない国になっている。システムのレベルで何かが機能していない。私の息子たちはミランのアカデミーでそれを体験した。戦術ばかりが話題になっている。ある子供が才能を持っていると、それが問題になる。でもそれは現代サッカーの原則に反している。さらに、老朽化したスタジアム、設備が整っていない練習場――。規則や制度をできる限り短時間で変えていくために、すべての人々を巻き込みたかった」

 「具体的には、イタリア人選手がセリエA、B、Cのチームでプレーすることを促すルール(EU法では認められていないが解決策を見出すことは可能だった)、育成部門への投資義務などだ。監督ももっと現代的な方法で育成しなければならない。今10~14歳の子供たちを指導する監督は月1000ユーロしかもらえず、別の仕事と兼業しなければならない。彼らを支援する必要がある。そこが決定的な年齢だからだ」

 就任が決まって間もない7月23日、マラゴーにとって最大の支持母体であるレーガ・セリエAにこのプロジェクトの説明に赴いた時の反応は、決して悪いものではなかった。

 「レーガでは、2つの異なるレールを柱とする我々のプロジェクトについて説明した。イタリアサッカーの再建には時間が必要だ。新たなタレント、新たなメンタリティを形成する道のりは長い。そのためにはFIGCのすべての構成員、セリエA、セリエB、セリエC、アマチュアリーグから監督協会、選手協会、審判協会までを巻き込んだ新しいムーブメントを作る必要があった。そしてもう1つのレールの上では、イタリア代表がもっと速く走らなければならなかった。2カ月もしないうちにネーションズリーグでベルギー、トルコ、フランスと戦うからだ。我々は明日を準備すると同時に、今日もうまくやらなければならず、再び勝ち始めなければならなかった」

 「レーガは、もし経済的支援が必要なら協力する、とまで保証してくれた」

 ここまでは何の問題もなかった。イタリアサッカーを再生させるためには、システムや制度のレベルから抜本的な改革に取り組むことが必要であることも、具体的に何をするべきかについても、総論レベルでの合意はとっくに成立していると言っていいからだ。特集「イタリア代表はなぜ、弱くなったのか」でも繰り返し掘り下げたように、問題はそれを実行に移そうとすると必ず誰かの利害に抵触し、そこから反対を受けて実現に至らないことの方だ。少なくとも10年以上にわたってそういう状況が続き、イタリアサッカーの進歩は停滞して時代から取り残されていった。妥協を嫌い原則に忠実な人物と誰もが認めるマルディーニは、その壁を突き破るにはうってつけであるように(少なくとも筆者には)見えた。

グアルディオラからピルロへ――誤算だったストーリー設計

 雲行きがおかしくなったのは、代表監督人事が具体化した時からだった。まず、マルディーニとレオナルドが、バルセロナでグアルディオラと会談を持ったことがスクープされ、世論の期待に火がついた。上記レーガ・セリエAへの説明会が行われた後の記者会見でマルディーニは、グアルディオラとの接触を認めただけでなく、アンチェロッティにも電話したことを明かし、「最高の人材から始めるのが正しいと考えた」と語ったものだった。

 個人的には、グアルディオラがこのオファーを受諾すること自体、うまく想像することができなかった。彼のサッカー哲学とイタリアサッカーの伝統的なアイデンティティとは、あまりに相容れない部分が多いように思えることが、その一番の理由だ。しかし、このインタビューによれば、グアルディオラはかなり真剣に受諾の可能性を検討したようだ。

……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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