REGULAR

「砂時計」は結局ひっくり返らなかった。マンチーニ復帰までのドタバタ劇が暴くFIGC改革の現実

2026.07.31

CALCIOおもてうら#72

イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。 

今回は、イタリア代表監督人事をめぐるドタバタ劇。代表監督にロベルト・マンチーニが復帰し、新設されたテクニカルダイレクター(TD)にはクラウディオ・ラニエーリが就任——。一見すると経験豊富な名将たちによる新体制だが、その舞台裏では改革を掲げたFIGCの新機構がわずか数日で有名無実化するという、混乱が繰り広げられていた。代表監督人事をめぐる「ソープオペラ」が浮き彫りにした、イタリアサッカー改革の顛末を追う。

 7月28日、イタリアサッカー連盟(FIGC)のジョバンニ・マラゴー新会長は、理事会後の記者会見で、一時的に空席だったイタリアA代表監督にロベルト・マンチーニ、新たに設置されたFIGCテクニカルダイレクター(TD)兼クラブ・イタリア会長にクラウディオ・ラニエーリが就任すると発表した。

 2018年から23年まで5年間代表監督を務め、EURO2020優勝をもたらしたマンチーニの復帰は、ある意味では妥当かつ無難な人事であるようにも見えなくはない。しかしここに至るまでの直近1週間、この代表監督人事をめぐって繰り広げられたソープオペラもさながらのドタバタは、現時点ですでにどん底に近い状況にあるイタリアサッカーの未来をさらに憂いたくなるような、矛盾とご都合主義と政治的な駆け引きに満ちたものだった。

FIGCの会長不在。空白の3カ月

 その詳細に入る前に、少し時計の針を巻き戻す必要があるかもしれない。

 3月の欧州予選プレーオフでボスニア・ヘルツェゴビナに敗れ、3大会連続でW杯本大会出場を逃すという悲惨な事態に陥った後、FIGCとイタリア代表は3カ月近くにわたって奇妙な空洞化状態にあった。2018年からFIGC会長の座にあったガブリエーレ・グラビーナは、敗退の責任を取って辞任。代表監督の座も、プレーオフ直後にジェンナーロ・ガットゥーゾが解任された後は空席のまま。6月初めの国際Aマッチデーウィークに行われた親善試合は、U-21代表監督のシルビオ・バルディーニが暫定で指揮を執っている。そして、ようやく会長選挙が行なわれ、勝ったマラゴーが新会長に就任したのは、6月22日のことだった。

 新会長のマラゴーは、イタリアスポーツ界の統括団体であるイタリアオリンピック連盟(CONI)の会長を、2013年から2025年まで3期12年にわたって務めた67歳。この国を代表するスポーツエグゼクティブの1人である。首都ローマでフェラーリ、マセラーティ、BMWといった高級車を扱う自動車ディーラーの御曹司で、フットサルのイタリア代表として1986年にブラジルで行われた世界大会に出場した元アスリートでもある。ハイソサエティの人々が集まるスポーツクラブ「チルコロ・カノッティエーリ・アニエーネ」の一員で、1997年から20年にわたって同クラブの会長を務めて政財界に人脈を築き、それを足場にCONI会長の座まで昇り詰めた。

 そのマラゴーがFIGC会長選挙に担ぎ出されたのは、CONI会長としてスポーツ界のことを熟知しているだけでなく、政財界との強いパイプを活かしてサッカー界の利害(とりわけ経済的なそれ)を実現する手腕が期待されたため。中心になって立候補を後押ししたのはレーガ・セリエA、すなわちセリエAクラブの会長たちだった。対立候補だったジャンカルロ・アベーテ(76歳)は、2007年から2014年までFIGC会長を務め、現在も会長選挙で最も大きな票田(全体の34%)を持つレーガ・ディレッタンティ(アマチュアリーグ連盟)のトップの座にあるという、既得権益側の代表のような存在だった。それと比べれば相対的に改革側という位置づけだったマラゴーは、レーガ・セリエAに加えてセリエBとセリエC、さらには選手協会、監督協会の支持まで得て、会長選挙を制することになる。

 それからおよそ1カ月後の7月28日に予定されていた就任後初めての連盟理事会に向けた、マラゴーの最初の仕事が代表監督の選定だったというわけだ。

改革の目玉は「TD」を中心とした機構改革

 マラゴーの「意中の人」が、チルコロ・アニエーネの会員として友人関係にもあるマンチーニであることは、当初から広く知られており、マスコミでも当たり前のように取り上げられていた。一方、彼の最大の支持母体であるレーガ・セリエAが、アントニオ・コンテを推していることもまた、早い段階から報じられていた。

 しかし、マラゴーが新体制の目玉として鳴り物入りで打ち出したのは、FIGC全体の技術部門を統括するポストとしてテクニカルダイレクター(TD)を新設し、イタリア代表全体を統括するクラブ・イタリア会長(従来はFIGC会長が就いていた)も兼任するという機構改革だった。

……

残り:4,329文字/全文:6,409文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

RANKING