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橘田健人が磨く「川崎Fのボランチ像」。プレーから迷いを消す、中村憲剛“コーチ”のロジックとは?

2026.04.28

フロンターレ最前線#27

「どんな形でもタイトルを獲ることで、その時の空気感を選手に味わってほしい。次の世代にも伝えていってほしいと思っています」――過渡期を迎えながらも鬼木達前監督の下で粘り強く戦い、そのバトンを長谷部茂利監督に引き継いで再び優勝争いの常連を目指す川崎フロンターレ。その“最前線”に立つ青と黒の戦士たちの物語を、2009年から取材する番記者のいしかわごう氏が紡いでいく。

第27回は、「川崎Fのボランチ像」を磨く橘田健人の進化について。そのプレーから迷いを消す、選手キャリアをすれ違った中村憲剛デベロップメントコーチのロジックとは?

 川崎フロンターレの中盤でダイナミックな変化を遂げている存在がいる。

 橘田健人である。

 ピッチの至るところに顔を出す無尽蔵のスタミナと、鋭い予測に基づいたボール奪取能力を最大の武器とするボランチだ。桐蔭横浜大学から正式加入した2021年のルーキーイヤーからその強度は折り紙つきで、2023シーズンにはチームキャプテンを務め、天皇杯優勝にも貢献。フロンターレの屋台骨を支えてきた中盤の1人であるのは間違いない。

 ただ近年は、見ていてどこか物足りなさもあった。

 例えば「ボールを持った時の怖さ」。狭いエリアでボールを受けても、嫌な場所を突く回数が少なく、無難に横や後ろへ預け、リスクを回避する。ゲームを作るというよりは、周りにボールを託す作業に終始していたように映っていた。去年に限れば、序盤に右足関節を負傷しながらプレーしていた影響もあったのだろう。2024年夏に加入してきた河原創にポジションを譲る機会も増えていた。

 だが今季は、その殻を破ろうとしている。

橘田健人(Photo: Takahiro Fujii)

執念と時間。2つの劇的決勝弾の影に、この男あり

 最も変化を感じるのは、勝負どころでの振る舞いだ。

 今月でいえば、5日に行われた明治安田J1百年構想リーグ第9節・浦和レッズ戦での劇的な勝利(3-2)。90+4分の決勝ミドルを決めたのは河原だったが、ゴール前に入っていった橘田の献身的なランニングが浦和守備陣を引きつけ、バイタルエリアには空白が生まれていたことは見逃せない。

 「最初はトラップして、入っていこうかなと思っていました。あそこに何人かいたので、3人目でうまく入ろうと。ボールが出てこなかったんですけど、結果的にあそこが空いたのでよかった」

 試合後の本人はそう説明してくれていたが、疲労困憊の後半ロスタイムにも足を止めない執念がそこにはあった。

 「やっぱり勝ち点3を取るぞという思いが今日は強かったです。ホームですし、PKで勝つよりも90分で勝つぞ、と」

 同じく劇的な勝利を飾った、第11節の横浜F・マリノス戦(1-2)。

 勝ち越し弾を挙げたエリソンへのアシストも秀逸だった。味方のカウンターをサポートすると、ボールがこぼれてきた。そこで慌ててダイレクトでパスを出すのではなく、一度トラップして「時間」を作る。対面の喜田拓也の状態を見極めながら、エリソンが体の向きを作るのを待ってから通したラストパス。勝負どころでのあの溜めと判断は見事だった。

 「エリソンとのタイミングもそうでしたし、より正確に最後のチャンスだと思ったので、大事にというか、まず1回止めてからでも大丈夫かなと。とりあえず止めたタイミングでエリソンがちょっと体の向きを作っていました。トラップした後のタイミングを逃さなかったのはよかったのかなと思います。自分の中で、ゴール前に顔を出すのは常に意識しています」

 浦和戦と横浜FM戦。「劇的決勝弾の影に、この男あり」なのである。

……

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Profile

いしかわごう

北海道出身。大学卒業後、スカパー!の番組スタッフを経て、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の担当記者として活動。現在はフリーランスとして川崎フロンターレを取材し、専門誌を中心に寄稿。著書に『将棋でサッカーが面白くなる本』(朝日新聞出版)、『川崎フロンターレあるある』(TOブックス)など。将棋はアマ三段(日本将棋連盟三段免状所有)。Twitterアカウント:@ishikawago

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