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“マタラッツォ革命”とは何か?ソシエダをコパ優勝に導いた高速トランジションと久保建英の未来

2026.04.24

サッカーを笑え #65

418日の決勝で120分間(2-2)+PK戦(3-4)の末にアトレティコ・マドリーを撃破。レアル・ソシエダが2019-20シーズン以来、通算4度目のコパ・デルレイ優勝を成し遂げた。昨年12月中旬の監督交代後、チームはリーグ戦でも降格圏手前から上位戦線へと浮上。就任4カ月でV字回復に導いた48歳のアメリカ人指揮官、ペッレグリーノ・マタラッツォの手腕に迫る。

 マタラッツォ革命をデータで見ると以下の通り(※4月20日時点)。

【就任前】
公式戦7勝5分8敗
28得点(1.4点/試合)
26失点(1.3点/試合)
(リーグ16位、降格圏と2ポイント差)

【就任後】
公式戦12勝4分3敗
45得点(2.37点/試合)
35失点(1.84点/試合)
(コパ・デルレイ優勝、リーグ7位、5位と4ポイント差)

 マタラッツォ革命を戦術的に最も端的に表しているのが、決定率(ゴール数÷シュート数)の変化だ。「就任前はリーグ14位の9%だったのが1位の16%になった」。コパ・デルレイ獲得後のテレビのレビュー番組でそう紹介されていた。裏付けとなる具体的なデータは見つけられなかったが、これが戦い方の変化によるものなのは試合を見ていればわかる。

 以前はポゼッションサッカーで、ボールを回復するためのハイプレス&ハイラインがセットになっていた。敵陣で試合を進め相手を押し込んでいるゆえにボールを動かす時間が長くゴール前は過密になっていて、シュート数の割にゴールが決まらなかった。今は自陣に引いた状態から縦にスピーディにボールと人を動かし、相手の守備が整わないうちに攻め切っているからチャンス数の割にゴールが決まる。簡単に言えば、ポゼッションサッカーからトランジションサッカーへ変化した。

 番組では「ポゼッションが少ない方が良い攻撃ができる」なんて言われていたが、これは誤解されやすい表現だと思う。なぜなら、スペインで圧倒的な得点力を誇っているのはボール支配率でやはり圧倒しているバルセロナであるからだ。バルセロナは失点も少なく得失点差でも他を圧倒している。ポゼッションが勝利への最短距離であることは変わらない。マタラッツォ就任前と就任後の1試合当たりの得失点を見ると、就任後は失点が増えており相手を自陣に引き込むことは失点のリスクを上げることがわかるが、得点増が失点増をはるかに上回っていて、勝率に直結する得失点差が大きく改善しているのがわかる。

ジョキン・アペリバイ会長がマタラッツォを招へいする前に、AIに「マタラッツォはソシエダ向きか?」と聞いたら「NO」と言われたそう。「SDを信頼して良かった」と会長

 マタラッツォ革命とは具体的には何なのか?

スビメンディ専属1ボランチ多様な2ボランチへ

マタラッツォの[4‐2‐3‐1]

 昨季までのイマノル・アルグアシル監督と、彼を受け継いだセルヒオ・フランシスコ監督はいずれも主フォーメーションとして[4‐3‐3]を採用していたが、マタラッツォ監督は[4‐2‐3‐1]を採用した。これは見た目以上に大きな変化だったと思う。というのも、1ボランチから2ボランチになり中盤3人の構成が逆三角形から正三角形になったことで配置的に重心が後ろに移り、相手を引き込むトランジション用の並びが用意できた、と同時に、不動の1ボランチが残したマルティン・スビメンディ(現アーセナル)の巨大な穴を埋める解決策にもなったからだ。

 ジョン・ゴロチャテギという後継者がいるのだが、攻守両面を1人で中盤の底から支える存在になるにはまだ時間がかかる。スビメンディがあまりに絶対的な存在だったゆえに下部組織出身で次々と若手を引き上げてきたアルグアシルも後継者を育てることはできていなかった。ある意味、ソシエダの1ボランチはスビメンディ個人に依存した属人的なポジションだったのだ。

 それをマタラッツォは2ボランチにすることでポジションの本来の意味=役割に戻した。特徴で言えば、2ボランチはより守備的なMF(ゴロチャテギ、ベニャ・トゥリエンテス)とより攻撃的なMF(カルロス・ソレール)の組み合わせになっている。ポゼッションサッカーの1ボランチはスビメンディにしかできないが、トランジションサッカーの2ボランチはゴロチャテギとソレールのコンビでも、ゴロチャテギ不在時にはトゥリエンテスとソレールのコンビでもできる。

 ソシエダにはトップ下的な攻撃的MFがたくさんいる=ソレール、(本来はこっちの)トゥリエンテス、ルカ・スチッチ、パブロ・マリン、ブライス・メンデス、アルセン・ザハリャン、さらに今は偽CFのミケル・オヤルサバルと左SBにコンバートされたセルヒオ・ゴメスもいる。このオーバーブッキング状態もマタラッツォの[4‐2‐3‐1]なら2ボランチ+トップ下+左右どちらかのサイド=偽ウインガーと4つポジションがあるので解消が可能になった。つまり、マタラッツォは人余りの有効活用化にも成功した。冬の移籍市場で放出寸前だったが今はレギュラー格のトゥリエンテスはその最たる例である。

SBの危険なハイジャンププレス関係の単純化

……

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Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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