【対談前編】山口遼×木下慶悟。マドリーは“余白”で勝ち、シティは“最適化”で敗れた――CLが示した現代サッカーの分岐点
[特集]現代サッカーは本当につまらなくなったのか――インテンシティと最適化が奪った“余白”の正体#1
「最近のサッカーはつまらない」
そんな声を耳にすることが増えた。だが、それは本当にサッカーの問題なのだろうか。それとも、我々の見方が変わっていないだけなのだろうか。かつてより速く、強く、正確になった現代サッカー。その一方で、「どこか似ている」「息つく間がない」「何かが足りない」と感じる瞬間はないだろうか。インテンシティの向上、戦術の最適化、リスク管理の徹底。勝利を追求した結果として洗練されていくゲームは、同時に“余白”を削ぎ落としてきたのかもしれない。では、その“余白”とは何だったのか。それは本当に失われたのか、それとも形を変えただけなのか。現代サッカーは本当につまらなくなったのか。本特集では、その感覚の正体を多角的に解き明かしていく。
第1&2回は、元アスルクラロ沼津コーチの山口遼氏と、FC町田ゼルビア強化部データアナリストの木下慶悟(きのけい)氏の対談だ。3月に行われたCLのレアル・マドリー対マンチェスター・シティを題材に、現代サッカーは本当につまらなくなったのかを考える。
前編では、戦前の下馬評を覆す結末となった対戦を2人が分析。「なぜマドリーは機能し、シティは停滞したのか」「ペップのサッカーに何が起きているのか」を読み解く。そこから浮かび上がるのは、“余白消失”という現象の具体的なメカニズムだった(取材日:2026年3月19日)。
「ケガの功名」が生んだマドリーの有機性
――まずは、今回の特集を組むきっかけとなったCLラウンド16のレアル・マドリー対マンチェスター・シティについて、お2人に振り返ってもらいたいと思います。木下さんはマドリー視点から見て、この試合をどう分析されましたか?
木下「試合を分析する前に、アルベロア就任後のマドリーをどう評価すべきかについて触れておきたいです。彼が指揮を執るマドリーが以前と比べて戦術的に良くなった点があるかと言うと、ほとんどないのではないかと僕は見ています」
山口「それは(ピッチで起きている)現象としては、という意味だよね?」
木下「そうです。シティとの第1レグ直前のセルタ戦(リーガ第27節)には勝っていましたが、リーガではその前のオサスナ戦(第25節)とヘタフェ戦(第26節)に連敗。ケガ人が続出して起用できない選手が10人以上にのぼっていました。ただ、そうした中で代わりに出場した選手たちが、このシティ戦では非常に有機的に機能しました。シティ戦では攻守両面でやるべきことが明確になるというのと、シティのミドルサードでの脆弱な守備に対してマドリーの攻めが完全にハマって第1レグに勝利。その後の第2レグも、シティの守備のやり方に多少変わったところがあったように見えましたが大枠の構図としては第1レグと変わらず、20分にシティが退場者を出してマドリーがPKで先制した時点で事実上、勝負は決したというのが全体的な印象です」
――今、「ケガ人に代わり出場した選手たちが有機的に機能した」というお話がありましたが、もしムバッペをはじめとした負傷者が健在で、彼らを“起用しなければならない”状況だったとしたら、マドリーはシティに勝つことができたのか。この試合を分析するうえで重要な論点の1つではないかと個人的に考えているのですが、木下さんの見解はいかがでしょうか?
木下「正直に言って、マドリーが負けていてもおかしくなかったと考えています。アルベロアが就任して以降、ムバッペとビニシウスの2トップに中盤にはバルベルデ、チュアメニ、カマビンガ、ベリンガムというアスリート能力の高い4選手をそろえる形からスタートしました。ですがその後、ムバッペやベリンガム、ロドリゴらが長期離脱。代わりに入ったのがアルダ・ギュレルやブラヒム・ディアス、チアゴ・ピタルチでした。彼らが入ったことが、先ほどお話した有機的な攻撃を生み出すことに繋がったと見ています。特に守備面におけるブラヒムの貢献度を考えると、仮にムバッペがいたとしたらかなり厳しい試合展開になった可能性が高いです。戦術的な進歩はないのではと言った理由はまさにここにあり、『人を抜擢したらうまくいった』という印象はどうしても拭えません」
――マドリーからすると文字通り「ケガの功名」だったわけですね。では今の木下さんの見解を踏まえて、山口さんの見解を聞かせてください。
山口「今の話に関して言うと、もしマドリーの監督がシャビ・アロンソのままだったとしたら、この試合はどうなっていたんだろうなというのはありますね。この試合のマドリーは良くも悪くも“マドリーらしい”戦い方をしていました。有形のスタイルはなくて、シティが速くプレーしようとしたらゆっくりとプレーして、逆にゆっくりプレーしようとしたら速くプレーするといった具合に、その時どきにおける個々の判断力、柔軟性が発揮されていました。
翻ってシティはどうだったか。前提として、最近のペップは中央を使った攻撃や、相手と距離が近い中で駆け引きをするといったリスクをかけた攻撃を減らして、試合のコントロール性を高める采配を見せています。そうした流れの中で、このマドリーとの第1レグではドク、サビーニョ、セメンヨとアスリート能力の高いウインガーを3人起用して敗北。大量得点が必要になった第2レグでは、第1レグではベンチスタートだったシェルキを先発させます。彼を起用して、リスクをかけた攻撃をした時にどうなるのか、興味深く見ていました。序盤はペースを握って攻めることができていたと思うのですが、20分にマドリーの速攻を食らって退場+PKで試合は終わってしまいました。
現代サッカーでは、中央を使って攻めようとするとあのシーンのように速攻から一発でやられるリスクを背負うことになります。プレミアリーグは特にそういった環境になっていて、だからこそペップと(アシスタントコーチの)ラインダースは試合のコントロール性を高める方向に向かっているんだなと感じました。ただそれと同時に、第1レグから第2レグのようなアプローチで試合に臨んでいたらどうなっていたのか、見てみたかったなという印象も残った試合でした」
なぜシティの攻撃は“怖くなかった”のか――構造的停滞の正体
――今シーズンのシティの戦い方について、「リスクをかけた攻撃を減らして、試合のコントロール性を高める采配を見せている」とのことですが、シティの変化に関して詳しく説明してもらえますか?
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Profile
久保 佑一郎
1986年生まれ。愛媛県出身。友人の勧めで手に取った週刊footballistaに魅せられ、2010年南アフリカW杯後にアルバイトとして編集部の門を叩く。エディタースクールやライター歴はなく、footballistaで一から編集のイロハを学んだ。2023年からはフリーランスの編集者兼ライターとして活動。
