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【イタリア代表アナリスト分析】守備は完成、攻撃は未完成。パパス・セレッソに見る「戦術設計と実装のギャップ」

2026.03.10

レナート・バルディのJクラブ徹底解析#13
セレッソ大阪(前編)

『モダンサッカーの教科書』シリーズの共著者としてfootballistaの読者にはおなじみのレナート・バルディ。ボローニャ、ミランなどセリエAクラブの分析担当を歴任し、FIGC(イタリアサッカー連盟)ではアナリスト講座の講師を任されている。現在はイタリア代表のマッチアナリストとしてスパレッティ体制に引き続き、ガットゥーゾ監督を支える「分析のプロ」の目で、Jリーグ注目クラブの戦術フレームワークを徹底的に解析してもらおう。

第13回と第14回は、就任2年目のアーサー・パパス監督が率いるセレッソ大阪を取り上げる。「守備はすでに完成度が高い。しかしボール保持はまだ機能していない」。開幕からの3試合を分析したバルディは、現在のセレッソをそう評する。前編では、パパス監督が志向するビルドアップの設計と、実際のピッチ上で生じている機能不全を中心に見ていこう(本文中の数字は2月26日の取材時点)。

まだ完成していないパパス・セレッソ

――新シーズンの初回は、セレッソ大阪です。就任2年目のアーサー・パパス監督は、横浜F・マリノスでアンジェ・ポステコグルー監督の副官を務めた後、鹿児島ユナイテッド、母国オーストラリアのニューカッスル・ジェッツ、タイのブリーラム・ユナイテッドを経て、昨年Jリーグに戻ってきた46歳。オーソドックスな[4-2-3-1]の使い手です。今回は、開幕からの3試合をレナートに分析してもらいました。

 「第一印象としては、まだチームが完全には固まっていないように見えます。ボール非保持局面に関しては戦術の浸透度が十分に高く、守備はプレッシング、ブロック守備のどちらも安定しているのですが、ボール保持局面に関しては、意図は明確に見えるにもかかわらず、チームとして機能するところまでいっていません。3試合を通じて、危険な場面を作り出したのは数えるほどでした。3試合平均のボール支配率は43%。つまりほぼ常に受け身で戦っており、主導権を握って試合を支配する時間は少なかった。パス成功率も80%を下回っており、これは低い数字です。後方から攻撃を組み立てようという意図はあっても、前進する前に技術的、戦術的なミスからボールを失うことが多く、ある時点からビルドアップを諦めてロングボールに転じる結果になっていました」

――それはプレッシャー下でのビルドアップに問題があったということですか。

 「ええ。開幕戦のガンバ、第3節のサンフレッチェはいずれもアグレッシブなハイプレスを仕掛けており、それを回避し切れず技術的なミスが多発していました。ボールロストが多く、決定機、シュートが少ない。攻撃に関してはまだチームの完成度が低いと評価するしかありません。昨シーズンは10位という中位でしたが、個のクオリティは低くはありません。ただ、ここ3試合を見る限りは傑出したプレーヤーも見当たりません」

――このクラブで育って世界に羽ばたいた香川真司が、4年前に戻ってきてキャリアの最終盤を過ごしており、他にもGKの中村、左SB大畑と海外経験のある選手はいますが、現役の代表はU-23で1月のアジアカップを戦った石渡と横山くらいでしょうか。陣容全体としては保有選手の市場価値ベースで20チーム中14位という位置づけです。まずはこの3試合のフォーメーションと起用された選手について見ていきましょう。

 「この3試合では一貫して[4-2-3-1]が使われていました。開幕戦で新加入のCB田中隼人が退場になり、続く2試合に出場できなかったこともあって、第2節ではメンバーが大きく入れ替わり、第3節はそのまま微調整だけで維持されたという流れでした」

クールズ依存のビルドアップ構造

――GKは開幕戦に出場したベテランのキム・ジンヒョンが足首を痛めて離脱し、第2節からは新加入の元日本代表、中村が出場しています。

……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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