始動3週間で名古屋も虜に!「その“楽しみ”を忘れてはいけない」ミシャ新監督が施す意識改革とは
Jリーグ新監督のビジョン#1
ミハイロ・ペトロヴィッチ監督(名古屋グランパス)
2026シーズンのJリーグは、降格がない百年構想リーグという変則レギュレーションの後押しもあり、チャレンジングな監督人事が目立つ。サンフレッチェ広島のバルトシュ・ガウル監督は38歳、ガンバ大阪のイェンス・ヴィッシング監督は37歳とドイツの新世代監督を招聘。トップレベルの指導経験はない藤枝MYFCの槙野智章監督も驚きの人選だった。名古屋グランパスのミハイロ・ペトロヴィッチ監督や北海道コンサドーレ札幌の川井健太監督、横浜FCの須藤大輔監督といった攻撃サッカーを掲げる戦術家も新天地で新たな挑戦を始める。未知の魅力にあふれた新たなサイクルの幕開け――Jリーグ新監督のビジョンに迫る。
第1回では監督業復帰の場を名古屋グランパスに選んだ“ミシャ”ことミハイロ・ペトロヴィッチ新監督。1月5日のチーム始動からわずか3週間で新天地も虜にしたその魅力と、「楽しんでやってほしい」と選手に繰り返し説き続ける意識改革とは?
尽きることのないサッカーへの情熱が、68歳の名将を再び表舞台に立たせた。ありきたりの言葉だが、筋金入りだ。2024シーズン限りで札幌との契約を満了した際、「95%はキャリアを終える」と言っていたが、その少ない方の5%の確率でJリーグへの帰還を果たした。“ほぼ辞める”旨の発言をしていながら、「サッカーに関しては常に自分でもアップデートを続けていて、ローマやアタランタの監督のサッカーに少し興味があったので見ていたり、自分でもアップデートし続けていた」と空白の1年を過ごしていたあたり、辞める気はなかったのだろう。「サッカーでは5%というのはすごく大きなパーセンテージさ」。ネバーギブアップをフィロソフィに置くクラブがその5%を提示したというのは、何やら運命的なものも感じる。
ミハイロ・ペトロヴィッチ。通称“ミシャ”は我われの想像通りの姿で名古屋グランパスでの監督業をスタートさせている。[3‐4‐3]の可変システム、サイドチェンジを多用するダイナミックな攻撃、北海道コンサドーレ札幌時代に確立したオールコートマンツーマンを基本とするディフェンスシステム。おそらくJリーグを知っている誰もが想像するその通りのミシャサッカーを、名古屋グランパスも表現していくことになる。
どこか守備的なイメージがついて回った過去5~6年のチームからすれば、攻撃的で魅力的、という枕詞がつきものの特殊なスタイルは目新しさや一新感も漂う。しかしクラブは時を同じくしてチームのプレーモデルの再定義を行なっており、それは「圧倒的な強度と運動量を基盤に、攻守でコンパクトかつダイナミックに戦う集団」で、それに適した選手像として「ハイプレスをベースに献身性、走る力で負けない選手・能動的に相手を追い込み、チームで連動した守備ができる選手・グループで前へ飛び出し、相手ゴールに襲い掛かる攻撃ができる選手」と定めている。それはまるでミシャ監督の好みを反映しているようでもあり、その点でもこの指揮官に白羽の矢が立ったことは自明の理といえた。他の監督候補となっていた顔ぶれを考えれば、ミシャ監督となったのは最もピーキーな選択ではあったわけだが。
Jリーグだけでも20年目の指揮となる経験豊かな監督にとって、チーム作りは非常に計画的に、テキストのページをめくるように順を追って進められてきている。就任会見の際には「まず4~5週間かけてチームに原則をしっかり落とし込んでいきたい」としていたミシャ監督は、始動日からの1週間で導入部となる基礎的な考え方や原則的な動き、採るべき選択肢の傾向を伝え、沖縄でのキャンプ2週間で練習試合を交えながら実際のサイズ感の中でのチームの挙動を叩き込んでいった。教え方は実にリアリスティックで教師的。常にアイディアを出して速い判断をしていくようにと伝えながらも、選んでほしい代表的な選択肢は先に示しておく。5レーンの考え方や5人でビルドアップをして5人で崩しに行くシステムの構造上、効率よくゴール前に迫る方法論は確立しているのだと思う。
そこに対してどれだけチームとして同じ画を描いて動いていけるか。味方の意図を感じ取って連係を生み出していけるかの部分が“アイディアを出せ”ということだ。頭と足を動かし続けること、前の選択肢を持ち続けること、相手がまったくついてこられない攻撃を仕掛けること。「縦パスが入ると思った瞬間にはもう動き出していなければいけない」。初期のトレーニングでは何度も何度も繰り返し、3人単位でワンタッチパスのみ、リターンパス禁止で前進していくメニューをやっていた。動き出しの速さと正しいサポートの動き方、3人目の動きをつくる最小単位で連動していく練習を積み重ね、始まってから3週間を経過した時点での名古屋の選手たちは、ミシャ式の“ベーシック”をある程度習得したようには見える。
名伯楽に託された「120%を出しきれる余白」(中村強化部長)
ミシャ監督を父のように慕う選手は多い。その理由はすぐにわかった。オープンで豪快な性格は常に選手たちに愛情を感じさせるもので、握手やハグ、頭を撫でられるのは日常茶飯事。首をつかんでグイグイと丸め込むように自分の懐に丸め込むスキンシップはものすごい力のようで、「パワーがすげえ」と苦笑いする選手も多々。良いプレーには「ブラボー!」と褒め、理想的なプレーが出ればそれが経験の少ない若手であっても「これがコレクトなプレーだ!みんな見たか!?」と全力で称賛する。
極め付きだったのは始動4日目で飛び出した、実に外国人らしい言い回しだった。
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Profile
今井 雄一朗
1979年生まれ、雑誌「ぴあ中部版」編集スポーツ担当を経て2015年にフリーランスに。以来、名古屋グランパスの取材を中心に活動し、タグマ!「赤鯱新報」を中心にグランパスの情報を発信する日々。
