「全力で走り、全力で戦い、90分完遂する」を保証する漢。いわきFCが搭載する新たなダイナモ、五十嵐聖己の覚悟と見据える先
いわきグローイングストーリー第10回
Jリーグの新興クラブ、いわきFCの成長が目覚ましい。矜持とする“魂の息吹くフットボール”が選手やクラブを成長させ、情熱的に地域をも巻き込んでいくホットな今を、若きライター柿崎優成が体当たりで伝える。
第10回は、いわきFCのチーム哲学を身体で表現するダイナモ的存在、五十嵐聖己を取り上げる。“実質”プロ2年目で完全レギュラーを奪った五十嵐のここまでの成長曲線について描く。
走れて戦えるサイドのダイナモ
「自分の成長に目を向けて結果を残し、絶対的な選手になる。そして今年はウイングバックで勝負したい」
いわき市から高速道路で約1時間、郡山市出身の五十嵐聖己は2年目を迎えるにあたり、強い意志を固めていた。
23歳で年齢的には大卒1年目に相当するが、昨年7月にプロ契約を結んだため、今季は2年目となる。今シーズンは全23試合に出場。チーム事情で3バックの一角を務めた時期を除き、右サイドで運動量を絶やさず走り続ける32番の姿がピッチにあった。
上下動を支える豊富な運動量、デュエルの強さ、ピンポイントのクロスの精度に優れ、昨年は6アシストを記録。今年は1アシストにとどまり、自身も物足りなさを感じているが、FWのキム・ヒョンウや熊田直紀らに対し、「決めてほしいと思えるボールを供給できるよう、クロスの質をさらに高めたい」と語る。
右サイドを主戦場としながら、左サイドでも遜色なくプレーできるユーティリティー性は高い評価を受けている。「大学時代も左サイドでプレーすることがあり、左右の違いによる難しさは少なく、仕掛けることも中に入ることもできるので苦手意識はない」と自信を見せる。
両足を使える器用さは90分フル出場の理由の一つであり、戦術的に重宝されるロングスローも彼の武器だ。ペナルティエリア付近でのスローインでは、逆サイドであってもスロワーに選ばれることが多い。全てが得点に直結するわけではないが、セットプレーを重視するいわきの戦術において、五十嵐のロングスローは空中戦に強い攻撃陣を活かす切り札となっている。

デビュー戦から継続的に起用する田村雄三監督は、その理由を「戦える選手だから」とシンプルに語る。球際の強さや走力など、いわきで求められる基本的な水準を備えていることが大きい。「連戦でもパフォーマンスを落とさずに維持できる。運動量が落ちない選手だと聞いていた。監督によって選考基準は異なるが、泥臭く頑張る選手はチームに不可欠なピース。彼はチームのためにピッチで全力を尽くしてくれる」と田村監督は評価する。
渡邉匠コーチのマンツーマン指導による変化
大学卒業を待たずに1年早くプロ入りした五十嵐だが、「特別上手い選手だと思ったことはない」と本人は言う。いわきの選手らしく全力でファイトし、走り続ける姿勢を貫く。
その背景には1年目の苦い経験がある。
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Profile
柿崎 優成
1996年11月29日生まれ。サッカーの出会いは2005年ドイツW杯最終予選ホーム北朝鮮戦。試合終了間際に得点した大黒将志に目を奪われて当時大阪在住だったことからガンバ大阪のサポーターになる。2022年からサッカー専門新聞エル・ゴラッソいわきFCの番記者になって未来の名プレーヤーの成長を見届けている。
