「僕を信頼してくれてありがとう(泣)」空白の2年を経て“母国デビュー”のポグバに幸あれ
おいしいフランスフット #18
1992年に渡欧し、パリを拠点にして25年余り。現地で取材を続けてきた小川由紀子が、多民族・多文化が融合するフランスらしい、その味わい豊かなサッカーの風景を綴る。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第18回(通算176回)は、18カ月に及ぶ出場停止期間を終え、2年契約を結んだ新天地モナコで復活を期す32歳のMFについて。
「僕があんなふうに泣くのは本当に珍しいことなんだ」
今夏のリーグ1のメルカートで、現時点で最もビッグなトランスファーは、ポール・ポグバのASモナコ加入だ。かつてフランスを代表するMFと言われた名手が、南野拓実のチームメイトとなって共闘する姿が見られることになる。
まだプレーしてたんだ? という“オワコン感”がある方もいるかもしれない。
確かに彼が最後に出場した試合は2023年9月3日のエンポリ戦。ということは、約2年間もピッチから姿を消していた。
ユベントスに所属していた2023年8月に、ドーピング検査で禁止薬物に対する陽性反応が出たことで、ポグバは4年間の謹慎処分を受けた。その後、彼が意図的に摂取したわけではなく、医師に処方されたサプリメントが原因だったと判明して18カ月に減刑されたが、この目まぐるしく変化するサッカー界において、2年間の不在というのは長い。
それだけに、そんなブランクを経ての現場復帰、しかもモナコという、チャンピオンズリーグ出場を見据えたフランスの強豪での再スタートに、契約書にサインをした瞬間、ポグバはカメラもはばからずに男泣きした。
「これは君の新しいステップの始まりだ。ここからは前を向いて仕事に励もう。ここにはトップクラスの環境がある。君はいるべき場所に、素晴らしい仲間とともにいるんだよ」
チアゴ・スクーロCEOからそう声をかけられて、「僕を信頼してくれてありがとう」と泣き崩れた姿には、なかなかグッとくるものがあった。
その数日後、7月3日に行われた発表会見の席で、あらためてこの、契約書にサインをした瞬間の気持ちを聞かれてポグバはこう答えた。
「僕があんなふうに泣くのは本当に珍しいことなんだ。堪能していただけたならうれしいよ(笑)。頭の中にいろんな映像が浮かんできた。ドーピングのことなど、みんなも知っての通りだ。そこから復活して、自分を信じてくれるクラブと契約できた。だからあの瞬間、あらゆることが蘇ってきて感情を抑えきれなかった。と同時に、喜びの瞬間でもあった」
南野にもプラス!“100%トップレベルに戻れる”MFの影響力
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Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。
