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「『本当に努力して諦めなければ、絶対に夢や目標は叶うんだな』って実感した」 横浜F・マリノス 水沼宏太インタビュー

2022.11.11

2022年のJ1ベストイレブンに横浜F・マリノスの水沼宏太が選出された。一度は後にしたトリコロールへ、再び帰ってきたのは2020年のこと。それから濃厚な日常を積み重ね、たゆまぬ努力を続けたことで、32歳となって迎えた今シーズンは初めて日本代表にも選出された上に、最後はJ1優勝まで辿り着いた。今回はそんな2022年シーズンを本人の言葉で振り返ってもらおう。

F・マリノスで達成したJ1制覇。自然と流れた嬉し涙

――率直にJ1優勝、いかがですか?

 「心の底から嬉しかったですし、優勝が決まった瞬間というのはいろいろなものがこみ上げてきましたね。正直、試合が終わる2分前ぐらいから、自分の中では来るものがあったんです。僕はベンチに下がっていたんですけど、最後まで優勝のために力を出し尽くそうと思いましたし、一緒に戦ってくれる仲間のことと、ゴール裏にも本当にたくさんのサポーターが来ていたので、その光景と、いろいろなものが見える中で、自分のこれまでのことがフラッシュバックしてきた感じでした。あの時は何とも言えない感情になりましたね」

――メチャメチャ泣いているところがDAZNで映りまくっていましたね。

 「あそこまで映さなくてもいいんじゃないかなって(笑)。ルヴァンカップと天皇杯は獲ったことがありましたけど、やっぱりリーグのタイトルというのはまた全然違うものがあるんだなと思いましたね。1年を通して戦ってきているのがリーグ戦ですし、みんなで積み上げてきたものがあるのがリーグ戦で、王手が懸かったと言われてから1か月ぐらい経ってしまいましたし、そこまでは感じていなかったですけど、少しみんなもプレッシャーを感じるところもあったと思うんですよ。ホーム3連戦で2連敗してしまって、応援して下さる、一緒に戦って下さる皆さんを不安にさせてしまったり、悲しい気持ちにさせてしまった申し訳なさとか、いろいろなものがガーッと押し寄せてきた感じでした」

――30歳を超えて嬉し泣きできるって、メチャメチャいいことですよね。

 「はい。凄くいいことですし、『嬉し涙って勝手に出てくるんだな』って。別に泣くつもりはなかったですし、泣きたいとも思っていなかったですし、『やった~!』って喜んでピッチに入っていこうと考えていたのに、もう結局ピッチに入っていったのは試合が終わってから5分後ぐらいでしたからね(笑)。どうなっていたか自分ではあまり記憶がないんですけど、そのあとにテレビやDAZNを見ていると、その場で崩れ落ちていて、みんなが抱き付きに来てくれたりしていて、本当にみんなへの感謝の想いがありましたし、あの時は勝手に涙が出てきました」

シャーレを掲げる水沼宏太

仲川輝人に送った今シーズンのラストアシスト

――しかし、大一番で3つのゴールすべてに絡むあたりは、今シーズンの好調を体現していましたね。

 「自分自身は試合に集中し過ぎてというか、のめり込み過ぎて、終わってから『そういえば3点に絡んでいたな』ぐらいの感じだったんですよね。『ああ、ここまで試合に入り込むとこういう感じになるんだな』って。自分がどうやって抜け出したかとか、どうやってプレーしたかはあまり覚えていないところもあるんですけど、1つ言えるのは、1点目のクロスもそうですし、2点目のFKも、3点目のアシストも、全部イメージ通りだったんです。ああいう最後の試合で自分らしさを出せて、自分の武器を思い切りチームのために使えたことが良かったなと思います」

――あれは3アシストって公式に記録してほしいですよね(笑)

 「してもらえるんだったら、してほしいです(笑)」

――今シーズンのチーム最後のゴールが仲川(輝人)選手で、最後のアシストが水沼選手だったことも、サポーターは嬉しかったんじゃないかなって。

 「僕がF・マリノスに入ってきた時には、その前年にテルが得点王とMVPを獲っていて、その同じポジションに入っていったわけですけど、『自分ならできる』と思って入ってきたのは間違いなかったんです。そこからずっとテルとは切磋琢磨してやってきた経緯もあるので、あのシーンはパッと中を見た時に、テルと(西村)拓真がいて、自分の中ではどちらにも出せたんですけど、テルの方が勢い良く入ってきたように見えて、『あ、これはあそこに出したら入るな』と思ったんです。だから、ゴールが入った時に僕も本当に嬉しかったです。どちらかが出れば、どちらかが出られない時もありますし、一緒に出ることもありますし、やっぱり同じポジションだといろいろなことがありますけど、一緒に戦ってきた仲間には変わりがなくて、テルからは常に刺激を受けているので、特徴はまったく違いますし、武器としているものもまったく違いますけど、同じポジションであるがゆえにそういう競争が生まれていく2人で最後に点を獲れたことも、本当に良かったなと感じています」

――あれはクロスと言うよりラストパスでしたね。

 「あそこは(アンデルソン・)ロペスが絶対に競り勝つと思ったので、オフサイドにならないように抜け出して、ファーストタッチで中に入っていけば必ずチャンスになるなと。ファーストタッチの置きどころも自分の中ではイメージ通りでしたし、あとはもう冷静にテルの動きも見えて、『突っ込んで来い!』ぐらいの感じでした」

――あのシャーレを掲げる瞬間というのは、どういう感覚なんですか?

 「初めてあんなに近くでシャーレを見て、まず『こんなに大きなものなんだ』と思いましたし、持った時には『ああ、こんなに重いんだ』って。もっと噛み締めて上げれば良かったかなと思うんですけど(笑)、みんなで騒ぎたいという気持ちが凄く強かったので、みんなで『イエーイ!』という感じになりました。今から考えれば、あれを掲げるために1回は悔しい想いをして外に出たこのクラブに戻ってきたわけで、小さかった頃に憧れていたこのチームの優勝を実際に日産スタジアムで見たこともありましたし、それを自分が選手として経験できるなんて、いろいろな回り道をしたかもしれないけれど、諦めずにやってこられて良かったなって。改めて強く『本当に努力して諦めなければ、絶対に夢や目標は叶うんだな』って実感した瞬間でもありました」

――松田直樹さんのユニフォームを水沼選手が掲げていたのもグッと来ました。

 「やっぱりF・マリノスはマツさんの魂が入っているクラブですからね。マツさんがいた時に僕は1年目、2年目の選手としてプレーしていて、全然チームの力になれなくて、僕の思い描いていたプロキャリアのスタートではまったくなかったですし、チームの成績もあまり良くない頃で、リーグ優勝なんてほとんど頭になかったのも事実でした。でも、偉大な先輩がたくさんいて、その中に小さい頃から見てきた松田直樹という選手がいて、『カッコいいな。プロってこういうことなんだな』って感じさせてもらった先輩でもあるので、一緒にやっていた人は少なくなってきていますけど、F・マリノスのエンブレムを背負っている限りは、その魂を引き継いでいかないといけないですし、僕自身も教えられたことを、これからも伝えられるものは伝えていきたいと思っているので、優勝してああいうふうにマツさんのユニフォームを持って写真を撮れたことは凄く良かったです」

F・マリノス残留を自分で正解にできたことが良かった

――今シーズンはリーグ戦31試合に出場されて、その中で20試合がスタメン出場でした。これは水沼選手にとって大きなことだったのではないでしょうか?

 「正直去年からは想像できない数字ですよね。でも、去年は悔しい想いをしたことで、今年に懸ける想いを強く持って、『やってやるぞ』という気持ちで臨んだところもあったので、それがその数字に表れたのかなと。とにかく自分にできることを毎日毎日精一杯やるということが、チームのためになって、自分のためになって、いろいろなことをどんどんアップデートできていくことにも繋がっていくので、今年F・マリノスの選手としてスタートしたところから、成長できた部分はあるかなと思います」

――いろいろな選択肢がある中でF・マリノスに残ったのだと思いますが、残って良かったですね。

 「残ったことを、自分で正解にできたことが良かったなと思います。どこに行っても、どうなるかなんて、未来のことはわからないけれど、それを正解にするか、ダメだったと言われるかは、本当に自分次第なので、覚悟を決めてF・マリノスに残ってから、ここまでやってこられたことに対しては、自分の中でも凄く頑張って良かったなという気持ちですね」

――今シーズンのリーグ戦では7ゴール7アシストという数字が残っています。ご自身のベストゴールとベストアシストを挙げていただけますか?

 「ベストアシストは、エスパルス戦(第19節)の1つ目のアシストで、レオ(・セアラ)に上げたクロスですね。あれは自分でも『もうここしかないタイミングだ!』というところに上げられましたし、あの日はとにかく暑くて、結構チームとしても重い感じがあったんですよね。そういう苦しい中でも、メチャメチャ集中して蹴ることができたという実感が凄くあるクロスだったので、『ここだ!』と思った時に、そこに出せたのは自分の中で印象に残っています。それを信じてレオが走ってくれていたのも、僕はとても嬉しかったですし、あれが今年の中では印象的ですね。あの日の2つ目のアシストもよく覚えていますよ」

――レオ・セアラ選手のハットトリックになったゴールのアシストですね。

 「そうです。あれも崩しとしては完璧でした。自分でもシュートは打てるけど、『はい、どうぞ』というような感じで、気持ち良くパスを出せたので。でも、どっちかというと1つ目の方ですね」

――クロスの速さの感じもちょっとヨーロッパっぽいゴールでした。

 「そうですね。今までとはちょっと違った崩し方でもありましたし、いろいろな成長が見えた崩し方だったので、気に入っているゴールです。ベストゴールはアウェイのガンバ戦(第17節)のゴールですね。あれは自分の中で凄く落ち着いていて、『「周りが止まったように見える」というのはこういうゴールなんだな』という感じでした。

 一瞬の隙を見つけて、ここというタイミングでエウベルがパスを出してくれて、自分の思い通りのところにボールを置けて、そのまま気持ち良くシュートを打てました。グランパス戦(第31節)の2点目もそういう感じのゴールですが、試合の展開も含めて、ガンバ戦のあのゴールは凄く良いゴールだったかなと。なかなか今までの自分にああいうゴールはなかったですし、中に入っていけて、ちょっとストライカーっぽいシュートという感じもあったので(笑)、あれが今年一番のゴールかなと思います」

「間違いなく『年齢は関係ないんだな』ということを自分で証明できた」

――念願の日本代表にも選ばれて、J1優勝も成し遂げた2022年でした。この2つが叶った今、ここから先の水沼選手の夢はどうなっていくでしょうか?

 「今年はもう間違いなく『年齢は関係ないんだな』ということを自分で証明できた年でした。自分でもずっとそう思ってやってきましたけど、それを証明していかなければ、選手としての価値も上がっていかないと思うので、ここまで時間は掛かりましたけど、しっかりその2つを成し遂げられたことで、自分の中では『ああ、またこれで成長できるな』『まだまだ全然上に行けるわ』という気持ちにもなりました。

 1つタイトルを獲ったらもっとどんどん次のタイトルが欲しくなりますし、リーグだけではなくてルヴァンカップも天皇杯もありますし、僕たちはACLの挑戦権も得ました。ACLではベスト16というF・マリノスのクラブとしての壁があるので、そこを超えてどこまでも自分たちのサッカーを見せ付けることができればいいなと思っていますし、その一員として自分の価値を高めるために、チームのためにプレーできたらいいなと考えています。

 やっぱり優勝したらもっと優勝したくなりますし、日本代表に入ったらもっともっと代表に入りたくなりますし、そういうものっていうのはどんどん欲が出てくるものと正直感じています。それは経験してみないとわからなかったことなので、それを経験できたことは凄く良かったですし、日本代表にもまた入っていけるように頑張っていきたいなと、今は強く思っています」

PHOTOS:(C)DAZN , Getty Images

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横浜F・マリノス水沼宏太

Profile

土屋 雅史

1979年8月18日生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社。学生時代からヘビーな視聴者だった「Foot!」ではAD、ディレクター、プロデューサーとすべてを経験。2021年からフリーランスとして活動中。昔は現場、TV中継含めて年間1000試合ぐらい見ていたこともありました。サッカー大好き!

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