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対談:山口遼×小谷野拓夢 大学サッカーとデータ分析、 親和性と限界

2020.06.23

Jリーグに続き、再開の動きが広がりつつある大学サッカー。その舞台で近年、増えつつあるのが「学生コーチ」だ。10代後半や20代前半で指導者を志す最新トレンドにも敏感な若者たちは、さっそく「データ分析」を現場に取り入れて活用を試みている。その一端を紹介するために、昨年に収録した学生コーチ2人の対談を公開。当時、東京大学ア式蹴球部ヘッドコーチを務めていた山口遼氏(現・同部監督)と、北陸大学サッカー部コーチの小谷野拓夢氏(現・福山シティFC監督)が、ユニークな活動をする学生コーチが増えてきた理由、そして大学サッカーの現場でのデータ活用をテーマに語り合った。

日本のラップトップ監督の卵=学生コーチ


───まず小谷野さんはどういう経緯で若くしてコーチを目指そうと思ったんですか?

小谷野「高校2年生の時にスペイン遠征で選手としてビジャレアルのユースとか、あっちの強い街クラブと対戦したんですけど、いろんなところから『衝撃的な差』を感じて。ぼんやりと『日本とスペインで何が違うんだろう?』って考えた時に、その大きな差は選手を育てていく立場の方が縮められるんじゃないかと思いました。それで高校2年の冬くらいには、もう卒業したらサッカー指導者になろうって感じで。逆算して大学を選びましたね」


───どういうところを具体的に差として感じました?

小谷野「 一つひとつのプレーですね。パス&コントロールとかも異次元にうまいし。そうやって衝撃を受けて、帰国してから自分で指導について調べるようになったんです。そこでスペインやドイツの指導と比べて日本にはまだまだ根性論や非科学的な部分が多いことがわかったので、自分はその差を埋めるような指導をやりたいなと」


───今、ヨーロッパで「ラップトップコーチ」として注目を集めているナーゲルスマンも、お二人のように若い頃から指導者をやっていて、20代後半~30代前半で母国の1部リーグでチームを率いるようになりました。そうした「ラップトップコーチ」が台頭しつつあるのも、グアルディオラ以降にサッカーという競技自体が大きく変わったことも影響していますよね。

山口「 やっぱりペップ・グアルディオラのサッカーはほとんどの人にとって衝撃的だったと思うんですよね。あれを契機にサッカーがより『再現性』を持つようになり、指導者側だけではなく選手側の意識も変わりましたよね。もうあまり賢くない選手ってヨーロッパのトップレベルではほとんど生き残れなくなりました。あのバロテッリですら、まあまあ組織的に動きますからね」

小谷野「『再現性』で言うと、例えるなら『ジャンケン』みたいになってきた感じがあります。先月のフットボリスタで林舞輝さんがトッテナムとリバプールの記事で書いていたように、システムが1試合の中で何回も変化するようになってきた。そう考えると、『ジャンケンの相性のように正しくグーを出せるか』が大事になってきますよね。そこがさっき言ってた選手の頭の良さとかに繋がってきたりしていて。そうやって戦術の高度化が進んでいるのかなとは思いますね」


───そこでよく言われるのが「指導者がアップデートし切れていない」という問題ですが、選手側も同じなんでしょうかね?

小谷野「 そうしたアップデートを積み重ねるのが育成年代なのかなと」

山口「 育成年代のコーチがアップデートしてないから、育成年代を経てきた選手も当然アップデートされていない。そういう教育を受けてきていないから、選手も拒否反応が出たりしてしまう。どちらかというと頭でっかちな東大の選手たちですらそうなので、他のチームはもっと大変だろうなと」


───では指導者としての知識をアップデートするために、最新のトレンドやトレーニングメソッドはどういうふうに学んでいますか?

山口「今は国内外のいろんな人たちがTwitterとかで発信してくれるから学びやすい時代になっていますよね。それをきっかけに、気になった分野は自分で勉強したりもできるので」

小谷野「自分もそうですね。気になった分野や検索し切れないところは海外の論文を調べて、1からGoogle翻訳を使って読むとか」


───今はGoogle翻訳の精度も上がっていますしね。お二人は情報を取得するだけではなく、発信も積極的にされていますよね。学生コーチや学生アナリストはユニークな情報発信をしてる人が多いですが、たまたまみんなが独自に最近始めたんですかね?

小谷野「 たぶんそうですね。それぞれが発信し始めたって感じなんじゃないですかね」

山口「急に増えましたよね。時期的にペップをはじめとする新世代の監督を見てきた人たちが大学に入り始めているんですよね。で、コーチやアナリストをやろうっていう学生が単純に増えて、お互いに発信している様子を見て同調しているんじゃないですかね」


───小谷野さんはどういうきっかけで情報発信をしようとしたんですか?

小谷野「文字って伝わりづらいから他の人に読まれた時に違う解釈をされたら嫌だなって思って書いてなかったんですけど、周りの学生コーチたちに触発されて1回がっつりやってみたら反響が大きくて。それでもうちょっとやってみるかって3、4回やった感じですかね」

学生コーチ時代の小谷野氏。現在は広島県1部の福山シティFCを指揮している

山口「バックボーンのない学生が素の実力だけで評価されることはあまりないから、こうやってみんなに見てもらえることをやっていかないと評価してもらえないし、見向きもされない。僕たちはプロのキャリアがあるわけではないので、生存戦略としても情報発信していくしかないですよね」

大学サッカーでデータ分析は活用可能か?

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データ分析大学サッカー

Profile

浅野 賀一

1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。