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「イエローリボンのファイナル」に勝利して

2020.04.11

ウォッチング・グアルディオラ特別公開 #6

戦術、指導、分析、会話、移籍、参謀、料理……ペップ・グアルディオラのAll or Nothingな仕事術を密着取材で明かす『ペップ・シティ スーパーチームの設計図』が3月31日に発売となった。その刊行を記念して、共著者ル・マルティンが雑誌『footballista』で連載中の『ウォッチング・グアルディオラ』から、選りすぐりのエピソードを特別公開。

#6は、シティでの初タイトルとなった2017-18リーグカップ制覇の記憶。そこであらためて明らかになったのは、監督と人間、2つの顔に共通する“信念を貫く”姿勢だった。

 最初のタイトルは獲った。プレミアリーグの優勝候補であり、私はまだ無理だと思うが、CL王者は間違いないと太鼓判を押す者もいる。だが、タイトルの他にも獲得したことがある。カタルーニャの政治犯の問題を国際的に知らしめたのだ。説明しよう。

 2月25日、マンチェスター・シティはアーセナルを3-0で破りカラバオ・カップ(リーグカップ)で優勝した。

 「マンスール会長、カルドゥーンGMから最後のファンまでこのタイトルにふさわしい」とグアルディオラはウェンブリーの会見場で切り出した。

 「初タイトルはうれしいが私はマンチェスター・シティの一員だからクラブとしてうれしい」「昨季うまくいってなかった時のことが忘れられない。サッカーで最も立場が弱いのは監督。クラブが私を支えてくれたことは、監督は私なんだ、という選手たちへの最高のメッセージになった」選手たちに労いの言葉をかけた。

 レンタル中のハートや退団したサバレタにも「彼らのおかげで今の地位にいる」とコメントした他、出場しなかったもののアグエロのゴールを我がことのように祝ったトゥーレ・ヤヤ、コンパニ、超未熟児の息子マテオにタイトルを捧げたダビド・シルバへの言及もあった。

 だが、会見で最も時間を割いたのは、“イエローリボン騒動”についてだった。政治的メッセージを持つという理由でイングランド協会から処分されることが決定している。「ルール違反なら罰は受け入れる。だが私は人間だ。これはヒューマニズムの問題なのだ。4人が刑務所にいて何人かが国外に逃亡中。まるで凶器を所持していたかのように。だが彼らの“凶器”とは投票だったのだ」

「私は監督である前に人間だ」

 ペップはスペイン政府によって違法とされた2017年10月1日の住民投票で逮捕される者や国外逃亡者が出て以来、彼らを支持するイエローリボンをつけている。

 「裁判官が有罪だと言うまでは誰もが無罪である。なのに、彼らは裁判すら受けていない。将来スペイン政府によって釈放されることを期待している」「私は監督である前に人間だ。君たち(イングランド人)はブレグジット(EUからのイギリス脱退)を問い、スコットランドの住民投票を許した。求めているのはそれなんだ」「リボンは肌身離さない。見えなくても身につけている。UEFAは別の解釈をしているが、このクラブは我われの考えを守ってくれる」「個人の主導権というものを守りたい。私は今、自分の自由を守る側に置く。スペインには何千億円も盗んだのに檻の外にいる者がいる。そして、何もしていないのに刑務所に入れられた者もいる」

 グアルディオラは「オムニウム・クルトゥラル」(1961年設立。当時公用語ではなかったカタルーニャ語の公用語化を求めた文化人の団体)のメンバーであり、2015年9月27日のカタルーニャ自治州選挙で「ジュントス・ペル・シー」(一緒にイエスと言おう、の意)という政党の比例代表リストに名を連ねたこともある。この政党は独立派として最多得票を得て、自治州政府の前首相カルレス・プッジェモンの母体となった。そのプッジェモンはスペインに入国すれば収監されるため現在ベルギーのブルージュに逃亡中だ。

 昨年6月11日、グアルディオラは独立派の政治集会に再びオムニウム・クルトゥラルの名で参加し、スペイン首相のマリアーノ・ラホイに対して次のように宣言してみせた。

 住民の80%と議会の圧倒的多数の支持を受けた民族自決のために住民投票の要請を計18回行ったが、答えはすべて「NO」だったことを明らかにし、「21世紀の欧州の民主主義国家にふさわしくない政治的な迫害を受けている」カタルーニャには「投票以外の手段」しか残っていないと訴えた。彼の言葉によれば「内務省は社会保障の破壊と政治警察を使って偽の証拠をねつ造し、自治政府の首相を不適格者としようと企んで」いて「社会的統合の源であるカタルーニャの学校制度を破壊しようとして」おり、港湾や空港や鉄道への投資を凍結しようとしている、という。

独立派が6000本のリボンを配布

 グアルディオラの家族はプライベートジェットを利用しているが、2月18日にこんなことがあった。バルセロナのプラッツ空港で国家警察がいきなり乗り込んで来て、プッジェモンを匿っていないかを調べたのだ。ペップはその時マンチェスターにいて翌日のFAカップ、ウィガン戦の準備をしていた。デルフの退場で後半を10人で戦い、29本のシュートを放ったが無得点に終わって敗れFAカップからの敗退が決まった試合だ。

 「敗戦の後、この決勝を戦うのは簡単ではなかったが、我われは目的を達した。凄く幸せだ」とグアルディオラは会見を締めくくった。

 ウェンブリーはイエローリボンで一杯になった。

 「共和国を守る委員会」(昨年10月1日の住民投票を実現する目的で生まれた団体)のロンドン支部が、他の左派・独立主義の団体と共同してスタジアムの入口で、政治犯の自由を訴えるグアルディオラと同じ6000本のイエローリボンを配ったからだ。もっとも、ペップを応援するシティファンの多くはすでにリボンをつけて来ていた。

 「イエローリボンのファイナル」。このグアルディオラが初タイトルを獲得した決勝は、そんな名で知られることになりそうだ。

Photos: Getty Images

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ジョセップ・グアルディオラマンチェスター・シティ

Profile

ル マルティン

高名なスペイン人記者。1980年代からラ・リーガと母国代表をテーマに執筆活動に勤しむ。2001年出版の『La Meva Gent, El Meu Futbol(私の人、私のサッカー)』は、ペップ・グアルディオラ自身との共著。マンチェスターとバルセロナを行き来しながら、シティのグアルディオラ体制を追う。2016年から『footballista』で「ウォッチング・グアルディオラ」を連載中。