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現代サッカーの必須科目。 プレッシング戦術完全ガイド

2020.04.03

『JUEGO』は欧州サッカーの最先端の知見を韓国、そしてアジアに還元することを目的として創刊された韓国発のインディペンデントマガジンだ。同じ志を持つfootballistaとのコラボ企画として、韓国人で初めてUEFAプロライセンスを取得した新進気鋭の指導者による現代サッカーのプレッシング解説をお届けする

 UEFAプロライセンスを取得した初の韓国人指導者は、ブラジル、ポルトガル、スペインで10年あまりの間、サッカー指導者として己の道を突き進んできた。オ・ドンフン(吳東勳)はサッカー王国ブラジルで大学を卒業したが、そこで学んだアプローチに疑問を感じてポルトガルへ飛び立つことを決意。さらに、名将モウリーニョを輩出したスポーツ専門の国立大学FMHの修士課程を経るだけでは飽き足らず、 スペインでUEFAプロライセンスを取得すると、サッカー指導者としての活動に本腰を入れていく。現在スペイン3部を戦うADウニオン・アダルベでU–12、U–19、トップチームのコーチを務めた後、韓国に帰国したオ・ドンフンはKリーグ2(2部)に所属するソウルイーランドFC のU–18コーチとして活動。これまで離れていた韓国サッカーのエコシステムに知見を深める一方で、ヨーロッパのサッカー理論を韓国とアジアに持ち込むために『JUEGO』で執筆活動も行っている。今回、そんな彼が綴るテーマは現代サッカーを語る上で欠かせない「プレッシング」だ。

プレッシング戦術の父、アリーゴ・サッキ

 現代サッカーにおいて「プレッシング」は欠かせない重要なキーワードになっているが、モダンなプレッシングを体系的にまとめ上げたのは、イタリアのアリーゴ・サッキである。時代と流行をリードするのは多様化していく様々なスタイルだが、サッキの守備組織を構築するアプローチとプレッシング戦術は現代に突入しても、いまだ多くのチームに影響を与え続けている。就任1年目でミランをセリエA優勝に導いたサッキは、88–89、89–90シーズンにCLを連覇する偉業を達成。当初アマチュア出身の無名監督に向けられていた懸念を一気に払拭し、瞬く間に名将の仲間入りを果たした。もちろん短かった全盛期と、その後W杯準優勝に導いたイタリア代表監督としてのキャリアを除けば良い結果を残すことはできなかったが、革命家としては非常に高い評価を受けている。

 サッキはユースリーグや下部リーグでの監督経験から指導力を評価され、世界的な名将の仲間入りを成し遂げた叩き上げだ。アマチュアリーグで監督経験を積んだ後、当時3部に相当するセリエC1に甘んじていたパルマのオファーを受けたサッキは、就任1年目でチームを2部昇格へ導く。翌シーズンには1部昇格をすんでのところで逃したが、コッパ・イタリアで強豪ミランを敗退に追い込む波乱を起こしたことで、当時ミランのオーナーを務めていたベルルスコーニから興味を惹かれ、ロッソネーリ(ミランの愛称)の新監督に就任。こうして彼の伝説が幕を開けたのだった。

  「サッキは哲学、トレーニング方法、インテンシティ、戦術からイタリアサッカーを一変させた。当時、他のイタリアのチームは受け身になって守備をするだけだったが、私たちのチームはプレッシングをかけながら攻撃的に守備をしたんだ」(カルロ・アンチェロッティ)

 「サッキはイタリアサッカー界にメンタリティと戦術において革命を起こした。私たちは自分たちのスタイルを発展させて相手チームとの試合で主導権を握ったんだ。相手が低いレベルのチームであろうと、レアル・マドリーのようなビッグクラブであろうと関係なく、自分たちのサッカーを貫いた」(ロベルト・ドナドーニ)

 アンチェロッティのコメントからもわかるように、当時はほとんどのイタリアのチームが深く下がり守備を固めてカウンターを狙うサッカーをしていたが、サッキはそうした守備の概念を覆した。消極的な守備ではなく、攻撃的かつ組織的に相手チームを攻撃する守備で試合を支配したのだ。その上でサッキが選手たちに強く説いたのは、チームとしてのインテリジェンスだったという。試合中、チーム全員に一瞬たりとも思考を停止させず、それぞれの状況でチームとしてのやるべきことを悟らせ、能動的に対応させる狙いがあったからだろう。知られているところによれば、このような能力を養うためにサッキはボールがない状況でボールを持っている相手のポジショニングを想定させ、選手たちのポジショニングに関わる指導を多く行っていたそうだ。[4-4-2]、ゾーンディフェンス、ハイライン、オフサイドトラップ、ゾーンプレスと、サッキはイタリアに限らず世界でも見たことがない画期的な戦術を浸透させた革命家だったが、アマチュア出身という肩書きによりメディアと記者たちには蔑ろにされていた。しかし、彼は実力ですべての議論に終止符を打ち、自らの手でサッカー史に自分の名前を残したのだ。

アンチェロッティはミランで選手として、イタリア代表で指導者としてサッキに師事した愛弟子だ

 「名騎手であるために名馬である必要はない」 (アリーゴ・サッキ)

 サッキが創案した守備戦術を学ぶには、まず基本的な守備原則と守備の方法について知っておく必要がある。守備をする時に従うべき原則のうち、いくつかをスペイン語で紹介してみると、Marcaje(マルカヘ)、Repliegue(レプリエゲ)、Cobertura(コベルトゥーラ)、Permuta(ペルムータ)、Basculación( バスクラシオン)、 Temporización(テンポリサシオン)、Interceptación(インテルセプタシオン)、Pressing(プレッシング)などが挙げられる。

基本となる守備原則と守備方式

Marcaje(マルカヘ)

──相手チームがボールを保持している時に、ボールホルダーを妨害したり、他の相手選手がボールを受けられないようにしたり、仮にボールを受けられても悪条件でのプレーを余儀なくすることで、円滑にプレーさせない守備動作を指す。相手選手をマークするという表現の方が馴染み深いかもしれない。ボールホルダーと対峙している選手は、基本的にボールとゴールの間にある直線上に立つ必要があり、自ゴールとの距離が近づくほど、相手選手との距離を縮めなければならない。......

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アリーゴ・サッキ戦術

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フエゴ

シンクタンクとして韓国、さらにアジアのサッカー談論を発展させる集団。ピッチ内の指導者談論とピッチ外のスポーツ産業談論を深めるべく世界各地を飛び回っている。その一環としてジャーナルを発行するメディア活動をもとに、サッカー外の関係者をアジアサッカーに招き入れ、新たなスタンダードの確立を目指す。「Juego de posición」が意味するように、一つひとつの障害を乗り越えて究極的な目標を成し遂げるために努力している。