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フニーニョ、特別講習コース…選手育成の、指導者養成の未来

2020.03.06

ベルリン州サッカー連盟指導者教官・カルステン・マース氏インタビュー_後編

若手選手の育成はもちろんのこと、ブンデス史上最年少監督ユリアン・ナーゲルスマンを筆頭とした若手指導者の育成・抜擢の土壌も確立されているドイツ。彼らはいかにして“若手抜擢”を可能にするシステムを作り上げてきたのか。ベルリン州サッカー連盟でおよそ20年にわたり「指導者の指導」に取り組んできたカルステン・マース氏を取材。ドイツの育成の現在・過去・未来について話を聞いた。

後編では、育成年代で新たに導入された「フニーニョ」や指導者養成コースでの新たな試みなど、将来に向けた動きについて、その狙いを明かしてくれた。

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フニーニョ導入までの苦労

――男子の方に目を移すと、ベルリン州は成功を収めています。新しい試みも始められているという話をしていましたね。

 「フニーニョの導入ですね。サッカーの指導も、ますます選手の年齢に適したものへと専門化されています。大人がやっていることを子供にやらせるのではなく、子供の成長具合に合わせて、トレーニングの内容を調整していくのです。若年層の子どもたちが楽しみながらサッカーをプレーすることで、基本的なボールテクニック、止める・蹴るなどのベーシックな技術、コーディネーションなどの運動能力を身につけられるようにするのが重要です。U-7(5歳、6歳)ぐらいのカテゴリーでは、3人の(フィールド)プレーヤーに対し4つもゴールがあり、常にボールに関わりながら動き続けられる方が子供にとって面白いでしょう。交代もフレキシブルで自由にでき、子どもたちが試合を傍観する必要もありません。短い休憩を挟んで、再びみながプレーする。これがU-9、U-11ぐらいまでのカテゴリーでドイツ全土に浸透すれば、ドイツのサッカー界もさらに発展できるのではないかと思っています」


――参加した講義の中で、州のサッカー連盟でのフニーニョの導入にはなかなか苦労したという話もしていましたね。

 「サッカーは国民的なスポーツで、誰もがサッカーについて知っています。老若男女を問わずに、何かしらの意見を持っているでしょう。ただ、ベルリンサッカー連盟の決定権を持つ人々はおおよそが年長者です。歳を取れば保守的になるもので、サッカーの世界でも同じことです。『なぜ、今までうまく行っているものを変えなければならないんだ』とね。フニーニョに関しても、彼ら自身がプレーをしたことがないので、の意義や効果もわからないし、フニーニョがそもそもどんなものかイメージも湧かないようです。経営者として活動はしていても、指導者としての経験を持っている人たちはほとんどいませんしね。

 そうして、ベルリンサッカー連盟の現場レベルで活動している指導者たちが集まって、上層部に対してフニーニョの導入を説得したのです。最終的に、このアイディアが実現されました。というのも、DFBもこのフニーニョの導入を積極的に提唱し始めたタイミングだったので、上層部もそれを受け入れなければならない状況になったのです。実験的に大会を開催し、成功を収めました。そうして少しずつ頻度を増やし、プロジェクト自体も順調に進んでいると思います。今は、U-7とU-9の年代で行っています。今は旧式の7人制サッカーも並行して行われていますが、理想を言えば2、3年後にはU-7とU-9のカテゴリーでは7人制のリーグ戦を廃止し、公式のフニーニョ大会が定期的に行われることを望んでいます」


――それは、現行のリーグ形式で行うのですか?

 「いえ、週末にトーナメント形式で定期的に行うものです。サッカーフィールド1面に8つのフニーニョ用のフィールドを設け、トーナメントを行います。1登録チームにつき4人ずつ2組を参加させて昇格(CLフィールド)、降格(ツバイテリーガフィールド)を繰り返すことで、最終的に同じレベル同士のチームが試合を繰り返すようになります。トーナメントとはいえトロフィーが用意されるわけでもありませんし、コーチたちがピッチ外から指示を出す必要もありません。交代に気をつけ、いくつかヒントを与える程度で済みます。指導者の数が足りなければ、保護者がピッチ横で見守るだけでも問題ありません。みながピッチ上で常にプレーし続けられる時間も長く、選手の成長の点から見ても理想的です。各チームが持ち運び可能な小さなゴールを持ち寄り、フィールドを作れば済みます。今のところはうまく行っていますね」

ライセンス制度の新機軸


――2019年から、コーチングライセンス取得者のための「特別講習コース」のような新しい試みも始まりましたね。私も参加しましたが、創設にはどのような背景があるのでしょうか?

 「今回が最初なので、これからどのように発展していくのか様子を見ていかないといけませんがね。コンセプトとしては、ある一定の年齢以上のカテゴリー(U-17以上、成人カテゴリー)で、ある一定のレベル以上のリーグで活動している指導者を対象にしたコースとして開設しました。

 また、これとは別で突出して優れた指導者にはC級発行とともに、B級参加のテストを免除するシステムの導入も検討しています。もちろん、その条件を満たすのは非常に難しいものにはなります。このコースの狙いは、少ない時間と少ないコストで集中的に講習コースを行うことで、これまで様々な事情によってなかなかライセンスを取る機会のなかった指導者たちにもライセンスを取る意欲を呼び起こすものにすることでした。

 2019年11月に州のサッカー連盟内で協議し、おそらく2、3年後に本格的に導入されるのではないかと見通しています。育成年代でもU-17以上のレギオナルリーガレベルでは、ライセンスのない指導者は指揮を執れません。将来的には、男子の成人とU-19カテゴリーでもベルリンリーガ(男子のトップチームは6部、U-19、U-17では3部、U-15では2部に相当)ではB級が必要になるようになるでしょう」


――私のように、仕事で計画的にまとまった時間を取れない指導者にとっても、今回のようにシーズンオフに10日という短い時間で参加できたのは非常に大きかったです。

 「加えて、私も担当していますがベルリン州の数カ所で、ライセンス取得のための講習会を開催しています。平日の、仕事が終わってからの時間に参加できるように配慮し、年々フレキシブルに対応できるようになってきています。この傾向は、今後ますます強くなっていくでしょう。通信学習もこの数年以内で導入していく方針が出ています。その都度、講習会に出席する必要はなく、テストや実技などを除いてオンラインで学べるようにしていくつもりです。職業も多様化し、仕事に就いている人たちが時間の都合をつけるのがますます難しくなっていきます。コースの修了までにかかる時間は長くなりますが、時間的にフレキシブルなコースです。あるいは、今回のコースのように10日間という短期間でインテンシブにコースを終了させて、その後にテストを受けることも可能になります」


――コースの種類に選択肢の幅が出るのは、良いことですね。今回の特別講習コースにも若く将来性のある指導者が参加していましたし、あらかじめそういった人たちを見つけるのに適しているかもしれませんね。

 「その通りです。それにこのコースはC級ライセンスなので、サッカーを専門とする人たちだけではなくいろんな職種の人たちも参加できます。教師であったり、スポーツ科学を学ぶ学生であったり。あるいは、長い間サッカーの現場で働いていながらライセンスを持っていない指導者は、そこで培った経験を持っています。それぞれが自身の持っているノウハウを持ち寄って、年齢や職種を問わず、多様なバックグランドを持った人たちが集まる機会として良いコースになったと思います。指導官としての私の責任は、そのさまざまな経験を持った人たちを1つにまとめることでした。コースの内容はすでに決められているのでそれを頭に入れつつ、この多様な人たちの間での交流を促すように気をつけていました。単にパワーポイントとホワイトボードを使って説明するだけではなく、私なりのやり方でテーマを定義し、それについてグループワークを行いました。それぞれの考えを引き出し、形にすることを心がけたつもりです。それらをひと通り見た後で、どこか足りない部分があればその部分を補足する、という方法を取りました」


――今回、私たちのコースの試験官の1人とグループの1つが少し揉めた件がありましたね。その時、「高いレベルのライセンスを持っていても、優れた指導者とは限らない」という話をしていて、興味深かったです。

 「ああ、ありましたね。ライセンス自体は、人格と何の関係もありませんからね。極端なことを言えば、ライセンスは『指導者の講習コースで学んだことを理論上再現できる』ことを証明するものです。それが現場で実際に使えるかどうかは、別の話です。それに加えて、人ときちんとコミュニケーションが取れるのか、社会性があるのか、お手本になれる存在であるのかどうかも関係ありません。そういった必要なことを知識として理解することはもちろん重要ですが、それが実際の現場で生かせるかどうかは、ライセンスによって証明できるものではありません。それは学校の教員でもそうでしょう。大学で何年にもわたって教員になるための勉強をしても、実際に教室で子どもたちにとって良い教師であるとは限りません。私たちが講習で伝えられるのは、理論や知識の部分のみです」


――確かに、講習コースでは社会性やパーソナリティといったことも授業の内容にありましたね。ただ、それをテストで答えられるのと、実際に自分自身で体現するのには大きな違いがあります。

 「そうです。言ってしまえば、指導者として生まれながらの才能を備えているとしても、やはり数年の時間をかけて経験を積みながらいろいろと学んでいく必要があります。そうして、人としても、指導者としても成長していかなければなりません。私も約35年にわたって指導者として活動してきましたが、いまだに学習すべきことが次々と出てきます。そして、今振り返ると、やはり年齢を重ねるごとに人とのコミュニケーションの部分で成長し続けてきました。キャリアの初めは、子供たちの“友達”として接していました。その後、ヘルタではエリートカテゴリーで成果も求められる仕事を経験しました。ヘルタ時代には、監督として選手との距離を置くようにしていました。ただそこから時間が経つにつれて、選手とやりとりをしながら関係を築いていくスタイルに変化していきました。選手との距離を近づけることで、それまでとは別のやり方で選手たちのパフォーマンスを引き出すようになったのです。“選手”と“監督”という関係性ではなく、“我われ”という感覚を持って、ともに鼓舞し合う関係を築いていくのです」


――選手とのコミュニケーションを取る方法が鍵を握るのですね。

 「そうです。指導者自身も、完璧に近づくためには自分の行動を認識しなければなりません。サッカーの知識だけではなく、スポーツ選手一人ひとりとのコミュニケーションの取り方も身につけなければなりません。毎年シーズンを過ごすごとに、指導者は学ぶことができます。自分たちのミスから、サッカーの知識や選手とのコミュニケーションについて学んでいくのです」


――最後に、今は指導者を育てる仕事をしていますが、そのモチベーションや日々感じる難しさのようなものがあれば聞かせてください。

 「いろんな指導者と交流できるのは楽しいですね。それに、私自身も常に新しいものを学び続けないといけませんし。自分の専門外のいろんな分野の人びとがライセンスを取るために集まるので、そういった人たちとのやり取りは面白いです。また、私自身の監督としての経験を伝えることで、他の人たちに利益をもたらせるようになるのはうれしいことです。この仕事をすることで、私自身もいろいろと学び、講習を受ける人たちには私の経験や知識を与えることができる。この相互の関係性が1つです。

 それから、サッカーの専門家としてベルリンという街のサッカー界の発展の一部として貢献したい、という思いもあります。私が現在行っている仕事は、それが最も可能なものだと思いますね。ベルリン州内のアマチュアクラブのことも、エリートレベルのカテゴリーのことも理解していますからね。ベルリンサッカー連盟の指導者でもあり、スポーツ学校の教師でもあります。もっとも幼いカテゴリーから、成人まですべてのカテゴリーをトレーニングしました。そうした経験を将来の指導者に伝えることで、いつか感謝の言葉の1つでももらえればうれしいですね」


Photos: Getty Images, Getty Images for DFB, Tatsuro Suzuki

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Profile

鈴木 達朗

宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。